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Rest in peace
「何も欲しくない」男は言い、女のかたわらに坐り思いつめたように女の顔をみつめ、女が今までに会ったどの女よりも美しい、おまえと一緒に高みに舞い上がるように盗人をやり、悪のかぎりをつくしたい、と心の中で言った。男はいま急激に別人になったような気がした。
指の腹には切れて化膿しさらにそれがなおってかたまりとなった跡が当たる。その取り返しのつかないひび割れのように肩から脇腹にかけて伸びているのを指の腹でたどった。
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Rest in peace
このくだりを読んで、しばらく息もできないぐらい苦しくなって、車窓から濃い緑が走り去っていくのを見つめた。
要は、男にはたとえどんなに身なりがきっちりした品行方正な人であっても破滅願望があり、それを唯一叶えることができるのが女だ、ということを思い出したのである。
浮かばれない願望を思うと涙が出た。なぜなら、新宮へ行く時、私はいつも、人には言えない、後ろ暗い秘密の恋人に会いに行くような錯覚に陥るからだ。
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光が強いぶん、影がとても強く、緑は残酷なほど濃く、私は否応なくそこに運ばれていく気がする。死を強く感じる。
そんなことを思っていたら、突然激しい雨が降ってきた。これは罰だな、いや、恵の雨かな。何も欲しくない。けどしばらく没入したい。
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location 紀伊勝浦