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2本の愛用スパチュラの話

やわい屋で買ったスパチュラ

2016年に飛騨宇津江にある民藝店「やわい屋」さんで一目惚れした購入した桜材のスパチュラをずっと愛用している。
店舗で初めて握った時のグリップが手に吸い付くような感覚は衝撃的で、これを使って料理するとスパチュラが体の一部になったような気にさえなる。
そんな調理道具に出会ったのははじめてのこと。
松本の大工さんだったかが作ったもの…そんな話を店主から聞いたような気がする(違ったらスミマセン)

この美しい曲線が手に馴染む

購入して最初に作ったのはオムレツだった。
試しに自分の分を焼いて、その後に嫁さんの分を焼くのだけれど、
全く失敗する気がしない。

絶妙な曲がり具合や角度が、自分の指先でオムレツの端をぺろっとめくりそのままくるっと包んじゃえるような、そんな感覚。

その後何人かにプレゼントしてとても喜ばれた。

そんな愛用のスパチュラが、今では家で作るスパイスカレーには欠かせない相棒になっている。
スパイスを焙煎するときもコレ、玉ねぎを飴色まで炒めるときもコレ、そして飛騨地鶏の入ったカレーを長時間煮込むときもコレ。
ウチのカレーにはいつだってこのスパチュラが泳いでいる。

手に吸い付くようなグリップ

ただ、鍋にひっついた焦げをこそげ落としたり、フライパンの縁をカンカンカンと叩いて焙煎時に表面に残るスパイス落としたり…体と一体化しているせいかそんな使い方もしていたせいで、ブレードの部分がかけてきたり毛羽立ってきたりしていて少し気になっていた。

スパイスカレーが染み込んだ先端
この裏面の曲面が絶妙に使いやすい
影まで美しい

先日、仲間の木工職人にサンドペーパーを分けてもらい、その部分を修正してみた。木に染み付いたスパイスカレーがカレー色の粉になって落ちてくる。なかなか深い香りとコクが味わえそうなカレーパウダーである。
60番から始まって、80番、100番、120番、180番、240番と番手を上げていくと、ボディケアをしているような感覚にとらわれる。
愛用と言うなら定期的にやっておくべきだったな…と思う。

でもお陰で、エイジングした風合いをもちながらもきれいに鍋底をさらってくれそうな滑らかなブレードが復活。
もうあまりにも美しい曲線と輝きで、手で触ってその滑らかさを確かめてはテーブルに置いて眺めて写真を撮る…の繰り返し。
民藝の美しさとこういうことか…と実感出来る自分が嬉しい。

URISのスパチュラ

URISのスパチュラ

昨年の誕生日にURISの望さんからプレゼントしてもらったのが、僕が愛用するもう一つのスパチュラだ。(ちなみに前章でサンドペーパーをくれた木工職人は望さんです…)
そもそもスパチュラという言葉を知ったのは既に商品としてあったURISのスパチュラからだった。
だから、前章でカッコよく「やわい屋のスパチュラ」なんて書いているけれど望さんと会ってなければ、もしくはURISのスパチュラと会っていなければこの記事のタイトルは「2本の愛用のヘラの話」だったということです…

実際に市販されているスパチュラはS・Mサイズで桜材とブナ材の二種類なのだけれど、プレゼントにいただいたのは、飛騨スパイスカレー研究所がイベントでカレーを作る用にとLサイズでしかも貴重な飛騨産の棗(ナツメ)材。

強度があって使いほどに色艶が増していくという。そんな色艶にスパイスが加わるからきっと更に素敵なエイジングが待っている。

ベースになっている漆下地用ヘラ

URISのスパチュラは、漆の下地塗りやハミ出た部分の漆を掬(す)き取ったり、混ぜたりする際に使われるヘラをベースに作られたもの。
その話を初めて聞いた時「はぁ~ん」となった。
さすが「会話がはじまるギア」である。でもこの段階では実用性はまだ未知数の状態。本当の会話はココからはじまる。

この開発に携わったのがある中学生の男の子。
口数が少ない子ではあるが、その子から出たアイデアがグリップエンドにくぼみをつけること。
きっとその方が手に馴染みが良い…とのことだという。
なるほど…と早速くぼみをつけたところ、指のかかりが絶妙に良くて、最終的な調整をしてめでたく商品化に至った。

望さんはこのエピソードをとても嬉しそうにお客さんに話す。
その表情には僕がココで文章にする何十倍もの情報が詰まっている。

このくぼみが凄い

僕は実際にシゴトとしてこのスパチュラを使わせてもらっていて、この1年足らずの間に数百食のスパイスカレーを作ってきたわけだけれど、このグリップエンドの細工は本当に優れていて、「やわい屋」のスパチュラと同等の一体感がある。

美容師さんのハサミ

このくぼみがあるだけで、ちょっとした角度や力の入れ加減が調整できる。イメージとしては美容師さんが使うハサミの穴の外側についているフックみたいなもの。まさにシザーハンズ的な一体感が味わえる。

レーザーで飛騨スパ研ロゴを入れました

先日、このURISのスパチュラも「やわい屋のスパチュラ」と同じようにサンドペーパーをかけた。やっぱりコクの有りそうなカレーパウダー上の粉が沢山落ちてきたけれど、この深みのある色艶は本当に素敵だ。
まだ1年も経っていないのけれど、それこそ「やわい屋のスパチュラ」みたいに8年も使い続ければもっとエイジングした美しさが出てくるんだろう。

2本のスパチュラ

2本の愛用のスパチュラ

こんな風にして僕は2本のスパチュラを手に入れて、今まさにもっと自分の体の一部になるようにと、スパイスカレーづくりの中でその機能美を追求している。
「やわい屋のスパチュラ」はもっぱら家の中で使い
「URISのスパチュラ」はイベントで使う。
そして今年もう一本、本格的なスパイスカレー製造に向けてシゴト用に購入する予定である。

僕が作るスパイスカレーに妥協や曇りがあれば、それはエイジングの過程で記録されるんだろうなと思う。
また時間を置いてサンドペーパーをかけた時に
「あの時手を抜いちゃった記録がこんなシミになって残っている…」
なんてことがないように、
僕の作るカレーは常に
「心と体が同時に喜べる」ものであるように作っていきたいものです。
そして、それを美しいと思えるブレない自分を常に持っていたいと思っています…

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