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自立課題に取り組むこと

 皆様お疲れ様です。Collaborate labという名前を付けて、自閉症支援にエビデンスのある支援の導入の普及を目指し、学びを情報発信をしています。最新のトピックや自身の学びを深めて現場に落とし込んでいくことが私の目標ですし、学びをシェアしていくことで皆様の何かのきっかけになればと考えています。大変恐縮ではございますが皆さんからもぜひ色々なご助言やご指導を受けながら洗練させていきたいと思っておりますのでどうぞコメント、質問、シェアやいいねなど様々なサポートをよろしくお願いいたします。皆様からのリアクションが励みとなります。

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 今回も私が実際に現場であった場面から支援の考察をしてみようと思います。皆様が支援を考える視点の一つとしてお役に立てれれば幸いです。今回は4515文字でした。



1.見学者の一言

 現場に見学に来られた方が自立課題を取り組んでおられた利用者様を見て

「うちでも取り組んでいるんですが、やってくれなくて…投げたり、壊したりするんです。」

と悩んでおられました。皆さんもこういったことで悩んでしまうことはありませんか?自立課題だけでなくても、ご本人に取り組みを提案してもうまくいかないことがあるでしょう。これは決して皆さんだけではないと思います。支援の中で「自立課題」というキーワードを元に取り組んでみよう!とやってみるけども、支援者の多くの方が、自立課題の遂行に苦労されています。
 少しどんなことをしているのかお話を聞いてみると「色んなところを見学した先でやっていたことを取り入れました」や「研修でやっていたものをうちでもやってみました」とお話になられていました。少し自立課題について内容を整理しながらどのような対処や対応、支援の考え方でやっていければいいのか検討してみましょう。

2.自立課題って何なのか?

 自立課題は、私がよくご紹介しているTEACCH Autism Programという自閉症のためのプログラムの中でいわれる「independent task」を英語から日本語へ訳したものです。

 自立課題は、その人が主体的に活動し、達成感を味わえるような環境を提供する上で非常に重要な役割を果たしています。個々の興味や能力に即したその人に合った取り組みを提供することで、安心して1人で始めから終わりまでを取り組めるよう設定された課題のことを言います。
 例えば、構造を整えて課題を行う場所や時間、使用する道具などを事前に決めておくこと、それらをイラストや写真、文字などを用いて、課題の進め方や手順を分かりやすく提示することなど複雑なものを分かりやすく整理し、体系的に把握できるようにします。
 それぞれの人の興味や発達段階、目標に合わせて、課題の内容や難易度を調整し、課題を繰り返し行うことで、ご本人に合った形での学習を促します。これにより、自立して取り組む姿勢を高めることが期待でき、その活動を日課として生活リズムを作ることができます。
 また、それぞれに合わせた構造を持って伝えていくことから理解や表出のコミュニケーションの促進や生活スキルや職業スキルの習得にもつながっていきます。興味関心や能力は、人それぞれに違うことから自立課題に取り組むにも自閉症の方の評価がとても大切になってきます。 

3.今回の件で考えてみたいこと

 これらのことを聞いてから今回の件を整理してみましょう。今回は見学に来られた支援者のお話から確認すると、「色んなところを見学した先でやっていたことを取り入れました」や「研修でやっていたものをうちでもやってみました」ということなので、ご本人の評価から組み立てた支援内容だったのか。今の支援目標に沿った支援だったのか。ということになります。
 言われていた対象の方の具体的な詳細はわからないのでコメントはできませんが、まず見直しが必要な部分は評価をしていくこと、そして導入のプロセスあたりかなと思います。
 評価もただ課題が「できているのか」「できていないのか」という部分だけではありません。ちゃんとご本人の興味関心、スキルに合わせてあるか、特性が考慮されているのかと言ったことが前提となって、本人に合わせて一つ一つ作成されている必要があります。なぜできているのか?なぜできていないのか?ちゃんと分析して、できるような形を整えることで、必要なスキルに向けて実践してもらうことになります。
 よく誤解されてしまうのですが、「構造化」や「自立課題」といったキーワードが魔法のような支援だと考えられることがあります。例えば構造化は物理的に整理すること、自立課題は渡せばやってくれるものなどがよく聞くことでしょうか。実際にはそれらはご本人についての適切な評価、目標に向けた細かいプロセスなどが存在します。以下に自閉症支援の方向性と考え方についてまとめておきましたので、「自閉症」に立ち返って支援をすること、どこを評価するか、どこをサポートするのかなど、もしよろしければ参考になさってください。


4.適切な学びを届けるために

 自立課題という手法の導入は、自閉症のある方がより自立した生活を送るための重要な取り組みの1つと考えられます。しかし、先ほどのような現場では「なかなかうまくいかない」という声もよく聞かれます。その背景には、支援者が抱える様々な環境要因が深く関わっているのではないか?と考えられました。いくつか挙げてみます。

1.時間的な制約
 ・
多忙な業務
   事務作業、記録作成、送迎、ご家族対応など、直接的な支援以外の業 
  務に追われ、十分な時間をかけ、一人ひとりの利用者に寄り添った支援
  を行うことが困難なケースが少なくありません。

 ・人員不足
   利用者数に対して支援者の数が足りず、一人ひとりに十分な時間をか
  けられない状況も考えられます。

 ・突発的な対応
   利用者自身の行動の変動や体調不良などだけでなく、マネジメントの
  視点から職員の欠勤や体調不良、人間関係など予期せぬ事態に対応せざ
  るを得ない場合、計画していた時間が削られてしまうことがあります。

2.物理的な環境の整備不足
 ・スペースの不足
   自立課題を行うためのスペースが確保できていない場合、利用者が動 
  いたり、集中して課題に取り組んだりすることが難しいことが考えられ 
  ます。また、様々な活動に対応できる場所が不足している場合は、活動 
  の切り替えがスムーズに行えなかったり、そのための練習ができなかっ 
  たりする可能性があります。
 
 ・安全面に関する部分
   段差や滑りやすい床、劣化した壁や床、入り組んだ場所があったりす 
  ると課題をする以前に、環境設定を行うにあたり、利用者の安全を脅か 
  す可能性があります。利用者が自由に動くことができなければ、自立に
  向けた動きのトレーニングがしにくくなる可能性があります。

 ・光や音の問題
   学校や幼稚園、公園が近いことで大勢の声が聞こえてきたり、高速道
  路や空港、駅が近くて外からの騒音が聞こえるなど、集中できる環境が
  整っていない場合、課題への集中力が低下します。光に関しても、ビル
  の反射でちらついた光が入ってくることや西日が当たりやすい部屋で必
  要以上に光が入ってくるなど感覚に敏感な方には疲労感や不快感が出て 
  くるかもしれません。

3.組織的なサポートの欠如(理解不足)
 ・マネジメント不足
   様々な支援手法の重要性や、その効果について、支援者は頑張ろうと  
  思っても、許可が下りなかったり、集中して取り組ませてもらえなかっ  
  たりすると、現場実践につながらない可能性があります。

 ・情報共有の不足
   重要なデータどりなど他の支援者との情報共有が不十分な場合、同じ
  ような課題を抱えていても、サポートを受けることができず、一人で解 
  決しようとすることしかできず、負担が増える可能性があります。

 ・研修機会の不足
   支援の専門性に関する研修の機会が不足したり、資金的な援助を得ら
  れなかったり、そういった時間を確保させてもらえなかったりすると、
  支援者は最新の知識や技術を習得することができず、効果的な支援を提
  供することが難しくなります。

4.その他の要因について
 ・施設の規模
   規模によっての影響もあります。一概には言えませんが小規模施設で
  は、少ない人員と予算の中で、細やかな支援を行なわなければいけませ
  ん。大規模施設では、多くの人員と予算により、組織が複雑化し、意思
  決定に時間がかかるという課題があるかもしれません。

 ・施設の歴史や背景
   歴史が浅い施設では、ノウハウが蓄積されておらず、組織文化もまだ  
  確立されていないため、構築をしていくことになるでしょう。一方で歴
  史の長い施設では、長年の慣習や組織の硬直化により、新しい取り組み
  の導入に抵抗感を持つ人が多く、変化に対応しにくいかもしれません。

 ・地域特性
   行政や地域との連携により、地域での理解を促進し、支援を受けた
  り、協力を得られやすくなり、実践できること多くなるかもしれませ
  ん。一方で、地域住民の自閉症に対する理解度によって、施設の活動が
  大きく左右される可能性があります。

 以上のことを考えると、外的な要因もありますが、これらは法人のサポートと考えることができます。この法人のサポートが不足すると、支援者は孤立感を感じ、モチベーションが低下し、結果的に利用者への支援の質が低下する可能性があります。法人全体で支援の質、プログラムの重要性を認識し、支援者を積極的にサポートすることが重要だと考えています。

5.まとめ

 少し環境要因にも含めて、改善に向けた取り組みを整理してみました。今回の自立課題に向けて考えたときを整理すると、外部からの学びを活かすためにも「ご本人」に焦点がしっかり当たるようにしていくことが重要だと思います。この「作ったのにやってくれない」というような感覚が、職員にとってはしんどさとなりかねないですし、誤解になってきます。さらには自立課題への情熱が強ければ強いほど、丁寧に作りこめば作りこむほど「やってほしい」ということになりかねません。
 自立課題はご本人たちにとって、成功できるものからステップアップし、その課題を活用しながら様々な応用や活用をしていくことになります。もしも取り組みでお困りのことがありましたら、「自閉症」へ立ち返って頂き、ご本人の視点で整理をしてみてはいかがでしょうか?読んでいただいてありがとうございました。

collaborate lab
高橋 大地

 


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