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妄想貯金箱。

妄想しがちな子どもだった。

お行儀のよい子が多いミッションスクールで育ったはずなのに、わたしの頭はまったくもってお行儀が悪かった。

小学校の頃、シスターの姿を見ては「今日、シスター松田(仮名)が志村けんさんの真似をしてくれたらどうなるんだろう」とか、「シスター岩井(仮名)が3体に分身したら……?!」とか、そんなことばかり考えていた。もちろん、宗教の時間にこっそり描いていた「シスター岩井分身の図」はあっけなく見つかり、没収された。

その勢いでわたしは本の世界へとのめり込み、中学生になると見事な中二病にかかった。太宰治、三島由紀夫、小林秀雄、その他たくさんの文豪、文筆家の作品を読みあさった。わけもわかっていないくせに、当時のわたしは深刻な顔をしていたと思う。

そんなふうに中二病のせいで気難しかったにもかかわらず、妄想はやめなかった。

1990年代のテレビCMでよく憶えているのが、歯磨き粉『アパガード』のものだ。東幹久さんと高岡早紀さんが、「芸能人は歯が命!」というセリフとともに白い歯を見せつけるシーンが強烈な印象を残した。

その一つに、東幹久さんと高岡早紀さんが浜辺を走るバージョンがあった。

わたしは浜辺バージョンの続編を勝手に考えた。浜辺で高岡早紀さんとはぐれた東幹久さんはショックで記憶喪失になり、街をさまよう。長いあいだ東さんを探し続ける高岡さん。あるとき、痛いほどに白い輝きが高岡さんの目を射る。ようやく再会できた東さんの歯の輝きだった。そこで二人は叫ぶ。

「芸能人は歯が命!」

(ちなみに記憶喪失に陥った東幹久さんはカルロスと名乗る殺し屋になっている、という設定にしていた)

……とまあ、こういう「しょーもない」妄想をするのが好きだった。

しかし、大学に入り、先輩に妄想の話をしてみた日のこと。

「テレビCMの続編を考えるの、好きなんです。たとえば……」

先ほどの、白い歯が輝くアパガードのCM「再会編」について熱く語ってみた。

「はあ? なに言ってんの? おかしいよ。お前、だいぶ変だよ」

あきれ80%、侮蔑20%といった感じの先輩の表情を見て、わたしは悟った。ああ、この妄想癖は隠したほうがいいんだな、と。中二病時代からうすうす気づいていたことではあった。

以来、わたしはできるだけ常識人らしく見えるように振る舞うために心を砕き続けた。妄想も控えた。おかげで、まともな人だと言われることもあったし、会社員として信頼してもらえたとも思う。

ただ、今日みたいにnoteの記事にするネタに乏しい日には、かつての妄想たちが尊いものに思える。あの妄想をすべて箱にしまっておいたなら、今ごろ書くネタに困ることはなかったかもしれない。

あほだったわたしの妄想貯金箱。どう考えても惜しい。


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