おえかき以外に全ベット
わたしは絵が下手である。どれくらい下手かというと、昔、友人に宛てた手紙の最後にスマイルマークを描いたことがある。それが届いたとたん、友人に
「最後に描いてあったあの呪いのマークみたいなやつ、なに?!」
と言われたほどだ。呪いじゃないわ、微笑みだわ!
先日、娘たちに「羊の絵を描いて」と頼まれた。星の王子様かいな、と思いながら、精魂こめて描いてみた。
丁寧に、細部まで入念に描いたつもりだ。角をこまかく描きこんだのがポイント。なのに、なんだか不自然だ。わたしとしてはかなりいい線いってるんじゃないかと思うのだけれど。だってほら、目もとなんてすっごくかわいいし。
「じゃあ鹿さん描ける?!」
「描けるよ、描こうと思えば」
数分後、こうなった。
これは自分で見ても不気味だ。目つきがなんとも邪悪なうえに、尻尾と脚の具合が不安を呼びこむ。なんだこれ。
わたしにはどこまでも絵心がない。子どもの頃、少女漫画ふうに輝く女の子の絵が描きたくて、たくさん練習した。でも、結局こんなのしか描けない。
きっとわたしには絵を描くことは向いていない。絵描きの才が先天的なものかどうかについてわたしは論を持たないけれど、生まれてこの方、芸術的な素養が育まれる環境で過ごしてはこなかった。
時間は有限。壊滅的に得意でない分野の能力を伸ばすべく努力するには、残りの人生は短すぎる。誰にでも鹿とわかる鹿が描けるようになる頃、わたしは老人になっているんじゃないだろうか。
一方で、このあいだ、わたしがライターの仕事をしていると知らない人にこう言われた。ある状況について説明したわたしの文章を読んでのことだ。
「言葉では表現しにくいシチュエーションについて書いてあるはずなのに、すごくよく伝わってきました。なにか書くお仕事をされているんですか?」
少なくとも、絵を描くことよりは文章を書くことのほうが、わたしには向いているらしい。
今から絵をうまく描く力を伸ばそうとは思っていない。持てる力は、絵を描くこと以外に賭けよう。勝負するなら、ベット先はよく考えなければ。
ただ、たまに描く変な絵も嫌いじゃない。勝負の外にあるものもまた愛おしいと、最近思う。