映画『PERFECT DAYS』
2023年 日本・ドイツ
監督:ヴィム・ヴェンダース
主演:役所広司
静かな映画だった。映画館で近くの席から”zzz・・・”と聞こえてきた。
まぁ、そのくらい静かな映画だったということだろう。
仕事が何かは別として、こうして同じような毎日を黙々と淡々と過ごしている人は多いだろうと私は思う。私には、平山が特別に無欲で静かな人には思えなかった。
コロナ蔓延、ウクライナ侵攻があってから、私自身何でもない普通の日々が送れることを強く願うようになった。派手な楽しみや驚くような出来事はなくていい。何事もない平凡な一日が一番いい。最近ではガザ地区攻撃や能登半島での地震があり、その思いは一層強くなった。毎朝目覚めると、ああ昨夜は何事もなく朝まで眠れたのだなと感謝する。朝、目が覚めたこと自体にホッとする。
毎朝同じルーティーンを繰り返してから職場に向い、やるべき仕事を黙々と手を抜かずにこなし、馴染みの飲み屋や銭湯という細やかな楽しみを大事にする平山は、自分とあまり変わらない感じがした。そして、ドラマチックな出来事など恐らく望んでいない平山の生活にも、様々な人との交流から何かとドラマは生まれていく。平山の人生に変化が生まれ、色が加わる。
日本にも世界にも”平山”は無数にいるだろう。私もその中の一人。そうした人々の人生を映画にするとこんな風に見えるのだ。嫌なこともあるし、いいこともある。望むと望まざるとに関わらず、ドラマや映画のような出来事に巻き込まれることもある。
平山がどんどん自分と重なっていった。
日本が舞台の日本語の映画だったせいだろうか、映画を見た帰り道、いつもの見慣れた街並も行き交う人々も映画の中の映像のように見えていた。映画の世界がそのまま自分の周りで続いているような不思議なふわふわした感覚で、駅までの道を歩いた。
これからも、小さな喜びを大切にし、平凡な一日に感謝して暮らしていこうと思った。