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初体験というやつ

 現代では初めて性体験をする年齢が高齢化しているらしい。まあ、そんなことはどうでもいい。問題は僕の話だ。僕は兵庫県A市で、TSUTAYAのようなそれでいて決してTSUTAYAではないレンタルビデオショップで働き始めた。この時、僕は喫茶店で仲良くなっていたMさんをこのバイトに誘った。19歳の彼女は早番、18歳の僕は遅番だった。この頃、僕はというと、どうやってMさんとセックスするかばかり考えていたような気がする。
 理由はいくつかある。その内でも大きなものとして、「童貞には芸術はわからない」という言葉に焦っていたのと、実際に童貞ではなくなって「そんなの関係ないですよ」と言いたい気持ちがあったというのがある。
 しかし問題はいろいろあった。まず、世の中の男女はどこでセックスのやり方を習うのかということだ。僕はこの辺りには呑気で、人間も動物である以上、いざその時になれば身体が勝手に動くと思っていた。だがいざそういったことをするチャンスが近づくと、「いやこれ避妊とかいろいろ下準備が大変だろう」と思い直すようになり、さてどうしようかと悩んだのだ。
 当時の僕はポルノ動画を見ずに(見ようにもビデオデッキがなかった)、フランス書院というポルノ小説レーベルのSM小説を読み漁っていた。これでは、流石に実技はわからない。
 それはそうとして、僕はMさんを部屋に呼んで、彼女とキスはするようになった。初めてのキスはモロに前歯を彼女の前歯に当ててしまったりしたが、僕はこの唇を合わせて彼女の身体を服の上からまさぐるのにはかなり興奮したし、癖になりそうだった。
 結局、すでに処女ではなかったMさんの手引きで、僕は童貞を捨てた。経験してみると、呆気ないなと思った。そしてやはり、「童貞を捨てたくらいで芸術がわかるかよ」と思った。反対に、大切なものを失ったとも思わなかった。この辺りのことに関しては、僕はけっこう淡白だ。
 それにしても、今も世の中には沢山の恋人同士がいる。その人たちの「最初の1回」って、一体どんなものなんだろう。みんなどちらかにリードしてもらうのだろうか。山下敦弘監督(※1)が撮るような恋愛って、みんながしているのだろうか。僕は基本的には男性同士で猥談をしない人間なので、みんな最初は大変だったのか、今になって気になる。みんな、どうして恋人を作って、セックスして、仲を深めて、ケンカして、別れていったのだろう。人の数だけそういった物語があるということがただただ不思議な夏の昼である。

※1 映画監督。モラトリアムの山下、と言われるほど青春時代を撮るのが上手い。

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