好きな季節
私が一番好きな季節は、秋から冬。
秋から冬だと一番ではないだろうという意見は聞かない。
最近は秋になってもいつまでも暑く、なかなか涼しくならない。あれは秋好きとしてはとても悲しい。
昔は10月になれば涼しかった。10月にもなれば学校の制服は冬物に切り替えられたし、朝晩は寒いくらいの気温で、さらりとした気持ちのいい空気が流れていた。
秋の良いところは、空気が澄んでいるところである。ピンとした心地よい空気感がこれから来る寒い季節を予感させてとても好きだった。
何より秋には文化祭がある。運動が苦手であった私にとって、文化祭は少しだけ活躍ができ、自己肯定感が上がる行事である。
中学で文化祭の実行委員になり(生徒会役員だったので駆り出されただけだけれど)いつもの下校時間になっても、準備という名目で学校に残っていられる。作業後、帰り道で少し気になっている男子と並んで帰る時、少しドキドキしながら他愛もない話をしていた。学校の坂の下の文房具屋兼食料品店のようなところで、肉まんを買い、食べながら帰った。いつもならあまり交流がないような少し不良っぽい女子とも文化祭の準備では、気を張らずに話ができる。意外にも手芸が上手なことを知ったりして、少し見方が変わったりする。人は話してみなければ分からないものだと思った15歳の秋である。
高校は女子高であったので、当たり前だが準備は全員女子で行う。高校は中学よりもさらに準備することが多く、帰りはさらに遅くなる。私の通っていた女子高は校則が厳しく、普段は制約が多いのだが、文化祭は意外と自由にいろいろさせてもらえた。生徒の自主性に任せてもらえていたように思う。とにかくいろいろなことが楽しかった。遅くなった帰り、いつもとは違い、すっかり暗くなって学校を出る。いつのも通いなれた道が少し違って見える。駅に着いて電車を待っていると普段の帰りの電車ではお会いしないような会社員の方たちが電車を待っている。ホームに入ってきた電車にも会社員がたくさん乗っている。いつもと違う電車、いつもと違う人たち。文化祭に向けて少し高揚している気持ちにそういう些細なことが記憶として刻まれている。文化祭にはほかの高校の男子も来ていて(多分うちの生徒の彼氏なのだと思うが)校内に男子がいることが新鮮であったりした。
大学も女子大であったため、女子ばかりでの大学祭の準備は高校と同じだが、決定的に違うのは近隣の大学の生徒との交流が多かったことである。当時はダンパ、いわゆるダンスパーティーが行われていて、ダンパ券を実行委員が売っていた。ほかの大学からも売りに来ていた。確か1回500円ぐらいだったと思う。今の若い人には「何それ。わけわかんね」とか言われるかもしれないが、スマホも携帯もない時代の学生はこういうことで出会いを作っていたのである。私もダンパで知り合った近くの大学の人と少しお付き合いをしたが、これはあまり長続きしなかった。青春の1ページである。
文化祭や大学祭、それについて回る私の記憶は、金木犀の香りである。10月頃になると咲く、あのどこからかふわっと香ってくる切ないような甘い香り。昔から金木犀の香りが好きだったが、青春の甘い思い出が加味されて、さらに好きになった。
後に、この香りの思い出に、さらに忘れられないことが書き足されるのだが、それは別の話で。
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