たった6年
私が父と暮らしたのは
たった6年。
父と母に手を繋がれ道を歩く。
私の手を引っ張り空中に持ち上げる。
父とでかけるときの楽しみだ。
家族3人でディズニーランドに行った。
ディズニーの帰り、
父と母が楽しそうに話している。
私はフルフラットにした後部座席で
ひざ掛けを持ち上げて遊ぶ。
後ろにいたトラックの運転手に
手を振ったら笑って振り返してくれた。
私のディズニーの記憶。
父は面白い。
変な洋服を持っていて
覆面フードを被って、笑わせてくる。
めったに料理をしない父が
焼きそばを作った。美味しかった。
父がバイクに乗っけてくれた。
三輪車とはちがう。
父は朝が弱い。
寝坊した私が登校班に遅れて、
1人とぼとぼ登校していると、
後ろから父が急いで自転車でやってきた。
父も寝坊したらしい。
父はいつもかっこよかった。
結婚したいけど、できないらしい。
小学校1年生の冬、
母に家のポストの前に呼び出された。
「ママとパパは家族じゃなくて
友だちになるんだけど、いい?」
友だちの方が仲が良いじゃないか
いいに決まってる。
それから母と引っ越しの準備を始めた。
父は一緒に暮らせないらしい。
友だちとはそういうものか。
母と2人の生活が始まった。
母は仕事を始め、
学校から帰ってきたら1人で留守番。
学童にも通ったけど、
あまり合わなかった。
「どうしてみんなはパパがいるのに、
私にはいないの?」
と聞いたら、母が泣いた。
二度と聞かないことにした。
父の話はあまりしないほうがいいらしい。
友だちになったのに、
父と母は全然会わない。
父の日に
前住んでいた家のポストに
内緒で母とお揃いのハンカチを入れた。
小学校の卒業式のとき、
2人ともそのハンカチを持ってきていて
そのとき初めて気がついたらしい。
中学2年生のとき、
父から電話があった。
「結婚してもいいかな?」
いいよって答えた。
私が父と暮らしたのは
たった6年。
たった6年のあいだに
私はたくさんの愛をもらった。
私の人生の最高の時間だった。
幸せ過ぎたのかもしれない。
たった6年が
いまでも私を元気づけていて
いまでも私をしばりつけている。
私はいまでもたった6年に置いてかれたまま。
いまの道を生きてきて
出会えた人たちも幸せもたくさんある。
だけど、やっぱり
私にはあのたった6年が
人生で最高の幸せだった。
たった6年が、忘れられない。