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私が「時をかける少女」を好きになった理由

「俺は時をかける少女が一番好きな映画だな。」

大学生の頃、付き合い始めたばかりの彼と好きな映画の話をしていた。
一番好きな映画を私が尋ねたら、彼はそう答えた。

「時をかける少女なら、確か、録画したビデオテープがあるはず!」と思った。

私は高校生になった頃から、「いつか観よう」と思って、テレビで放映された映画をVHSのビデオカセットテープにどんどん録画していた。
全く観ないまま放置していただけなのだが、その大量のカセットテープの中に「時をかける少女」があったことを思い出したのだ。


「時をかける少女」は、1983年、私が中学生の頃に上演していた原田知世さん主演の映画だ。
当時、かなり流行っていたはずだけど、中学生の私は映画館に行ったこともなく、当然その作品を観ていなかった。

ただ、原田知世さんが歌う映画の主題歌は心地よくて好きで、よく口づさんでいた覚えがある。



大学時代の私は、実家で暮らしていた。
居間にあるテレビ台の下の引き出しを開けると、ズラリとビデオカセットテープが並んでいる。
その背表紙から「時をかける少女」を見つけ出して、ビデオデッキにカセットテープを差し込んだ。

ひとりで映画を観ていて、正直、途中で飽きてしまった。
あまり内容も覚えていない。
不思議なおもしろさはわかるし、青春映画としては悪くないけど、全体的に色が暗くて、大学生だった私にはあまり良い印象が残らなかった。
ただ「彼はこういう映画が好きなんだな」と思っただけだ。

彼は、「時をかける少女」の原作者の筒井康隆さん星新一さんのような、ファンタジーっぽいSF短編小説が好きで、そういうジャンルの本ばかりを読んでいた。

ところが私は、どちらかというとヒューマン系の長編小説やノンフィクションの作品が好きで、SF小説は苦手だった。

お互いに気に入っている本を交換して読み合うことが、私たちは全くなかった。

そのくらい好みが違うので、彼の好きな映画を私が好きになれないのは仕方がない、と納得していた。



そんな、映画や本の趣味がことごとく合わない彼と、私は数年後に結婚した。

結婚してから10年ほど経った頃、一時期、夫が重松清さんにハマり、私が東野圭吾さんにハマった。
その頃から、不思議と2人の好みが近づいてきた。

彼は涙を誘うような人情系の映画を、私はちょっとミステリー系の映画を、好んで観るようになった。
それはただ、夫がおじさんに、私がおばさんになったからかもしれないけれど。

お互いが感動した本を交換して読み合うことも、ようやく楽しめるようになっていた。


ちょうどそのくらいの時期に「時をかける少女」がアニメ化された。
細田守さんの、軽やかで繊細なタッチの作品に、夫も私もすぐに興味を持った。

子どもが小さくて夫と2人で映画館へは行けなかったので、レンタルDVDを借りてきて家族みんなで一緒に観た。


アニメの作品は、学生時代に観た実写版よりも私は好きだな、と思った。
何より、映像が美しい。

アニメ化された映画のおかげで、「時をかける少女」という作品が、私にはさらに身近になっていった。


それから数年経ち、中学生だった長女が同級生の男の子と初めて映画に行くことになった。
付き合っていたわけではないが、誘われたので行こうかな、と彼女は気楽に思ったらしい。

娘の初デートに、私はひとりでソワソワしていたが、本人はいたって冷静だった。

「何の映画を観るの?」

と訊くと

「時をかける少女」

と娘が答えたので、びっくりした。

仲里依紗さん主演で、新たに「時をかける少女」が映画化されていたのだった。


翌日、娘の部屋のゴミ箱に、無造作に捨てられていた映画の半券を見つけた。
私はこっそりそれを拾って、自分の読みかけの本に挟んでおいた。

娘はデートのつもりではなかったようだし、結局、彼は仲良しの友だちのひとりだったようだが、母親の私にとっては、大事な記念日のように思えた。

それにやっぱり「時をかける少女」だから、そのままにしておけなかった。

その半券も今ではどこへ行ったのかわからなくなったけれど、「時をかける少女」が私には、さらに思い出深い作品になったことは間違いない。



そもそも私は、原作の本を読んでから映画を観るのが好きで、観たい映画があれば、まずは原作を読むようにしている。
どんなふうに原作の世界観や人物を映画で描くのか、それも楽しみだからだ。

しかし考えてみたら、「時をかける少女」は原作を読んでいない。
初めてこの映画を観てからもう35年くらい経つのだが、あらためて原作を読んでみようと思い、本を購入した。

アニメバージョンの表紙だった


100ページほどの短い小説で、想像以上にサクッと読めた。
1964年、まだ私も生まれていないような、60年も前の作品だったことに驚く。

テレポーテーション、タイムリープ、という言葉が自然に使われていたことも意外だったし、言葉使いは少し古いが、気持ちのやりとりや状況の設定に、古さを全く感じない。
登場人物たちの感情の揺れも瑞々しくて、現代に当てはめても違和感がないな、と思った。

映画やアニメは、年代に合わせてずいぶん設定には手を加えているが、おおまかな話のベースは変えることなく、大切に原作の軸を守っていると思った。

本を読んで、ますます「時をかける少女」が好きになった。

今の私が、原田知世さん主演の「時をかける少女」を観たらどう感じるだろう。
いつかもう一度、今度は夫と一緒に観てみたい。


原田知世さんの歌声は、ぴったりとこの作品と重なり、いつ聴いても軽やかに時代を飛び越えて、過去へ、現在へ、未来へも、儚く優しい風を届けてくれる。




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