あの場所から見える今年の桜を、君にも届けたくて
息子が家を出て、約2週間。
まだ、たったの2週間。
でも、もう2週間。
不思議とあんまり寂しくない。
なんだろう、ちょっと彼が部活の合宿に行ってるような、そんな感覚。
それに初孫の世話で、私の気持ちが満たされているせいで、そう思うのかもしれない。
ちっともメソメソしてない自分に驚きつつ、それでも、彼はどうしているかな、と思うと、ついついLINEをしてしまう。
するとだいたい、「夕飯作った」の写真が一枚送られてくる。
お!しょうが焼きやん!
お!ナポリタンも作ったのか!
しかも、彼はお弁当まで作り始めていた。
うちにいる時は、毎朝起こしても起きなくて。
ギリギリに起きて、朝ごはんをかき込んで、慌てて頭ボサボサのまま駅まで自転車をぶっ飛ばしていた彼が、早起きして弁当を作るとは…!
環境は人を成長させるなぁ、とつくづく実感する。
たぶん息子には調理も、実験、分析、制作のような楽しさがあるのだろう。
有言実行、やるじゃないか!って、思った。
ティファール、買ってよかったね!
*****
そんな時、思いがけず、息子から小包みが届いた。
丁寧な包装の品に、びっくりした。
開けてみて、さらに驚いた。
お世話になりました、って、おいおい、泣かすなよー。
まだまだ親はお世話をしたいんだから。
家を出る前日の夜も、特別感ゼロで、彼は彼女さんとご飯に行ってうちにいなかったし。
家を出る日の朝も、夫とは言葉を交わす時間もなく、朝からスーツケースの隙間に「もらっていくわ!」と、トイレットペーパー3個を詰めてた。
荷物が多いから駅まで送ったら、普段、学校に行く日みたいにサラッと、「やばい、やばい、時間がやばい!じゃあ!」って、駅に向かって振り返りもせずに駆け出してしまうし。
母は駅から家までの3分間だけ、車の中でポロポロ泣いた。
家に着いたら、長女が赤ちゃんと里帰りして来る準備で、私はパキッと切り替えて掃除おばさんに変身したけど…。
「お世話になりました」かぁ。
彼的なケジメだったのかな。
20歳、就職、独り立ち。
親への感謝として、何かをしたかったんだな、と胸が熱くなった。
箸、使えないよ。
しばらく飾ろうかな。
*****
そんな気持ちで迎えた先日の日曜日、お孫ちゃんのお昼寝中に、私は近くの川沿いへ久しぶりにひとりで散歩に出かけた。
麗らかな春の日、絵の具で塗ったような水色一色の空に、八分咲きの千本桜のピンクが映える。
昨年は、息子とこの道を散歩した。
私のお花見散歩に、彼は無理矢理付き合ってくれたんだけど。
その時、彼が1番好きな桜見ポイントを教えてくれた。
千本桜が見渡せるような、のんびりした場所だ。
少し遠いが、どうしてもそこまで行ってみたくて、すたすたと歩いた。
まだ桜は満開ではないが、とてもきれいな風景。
桜並木を歩く人はたくさんいるが、この位置から桜並木を眺めている人は誰もいない。
たまたま息子が見つけたとっておきのスポットだ。
でもなぜだか、去年の方が桜がきれいだった気がする。
息子にも、今年のこの桜並木を見せたくなった。
すぐには見ないかもしれないけど、息子にこの写真をLINEで送ってみる。
すると、すぐに返信がきた。
「いいなぁ」
「きれいだよ。来年は見れるよ!彼女さんと一緒に歩いたらいいやん」って送信したら
「次の週末、いったん帰ろうかな」
と返信。
新しい住まいに厚手の服しか持って行ってなくて、急な暑さで、ちょっと困っているらしかった。
私は嬉しくなって、すぐにまたLINEした。
「衣替えに帰ってきたらいいやん!運賃は私が出すから!」
「あり」
と返信。
嬉しくてスキップしてしまった。
さらに畳み掛ける。
「うん、遅くなってもいいから金曜日の夜に帰っておいでよ」
「あり」
「まだ、今年の桜に間に合うよ」
「あり」
「赤ちゃんも抱っこできるし」
「あり」
「餃子、作るし」
「あり」
週末、息子が帰ってくる。
散歩しながら、胸が躍った。
桜が笑っているようだ。
帰宅して、次の週末に息子が帰ることを夫に話した。
母ちゃん恋しいのかな!ホームシックかな!みたいに私がはしゃぐと、「彼女に会いたいんやろ」と夫に返された。
ま、そうだな。
さぁ、週末、また賑やかになるぞ!
うちを出た翌日、早速新しい街を散策して、「都会の美容院に行ってみたー」と連絡をくれた息子。
ふふふ、シティボーイ(言い方が古っ!笑)になってるのかな。