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地球星人|読書感想文
あらすじ
恋愛や生殖を強制する世間になじめず、ネットで見つけた夫と性行為なしの婚姻生活を送る34歳の奈月。夫とともに田舎の親戚の家を訪れた彼女は、いとこの由宇に再会する。小学生の頃、自らを魔法少女と宇宙人だと信じていた二人は秘密の恋人同士だった。だが大人になった由宇は「地球星人」の常識に洗脳されかけていて……。芥川賞受賞作『コンビニ人間』を超える驚愕をもたらす衝撃的傑作。
感想
宇宙人の目から見たら、僕の欲求である地位や名誉、お金は狂気だろうか。
「労働」と「生産」以外に、人の価値はない。そんなことはない、と言えない。子どもを持つために、お金を稼がなければいけない。「しなければいけない」を圧として背負って、生活している。
人は労働することで社会の駒として価値を認められる。そして、次の駒を生産することで価値を絶やさない。工場の部品として生きていくのだ。それらを怠ると、責められたり、落ちこぼれの烙印を押される。それに疑問や違和感を抱かず、生きていく方が楽だろう。
だから、今まで違和感を感じない振りをしてきた。部品として、労働し、競争する地球星人の僕。そんな僕に小説は問い直しをしてくれた。
どうして働かなければいけないのか
どうして生殖しなければいけないのか
どちらもしなくていい。労働と生産の絶え間ない前進運動から離れた場所に答えがある、と思う。工場にはない遊びの領域だ。無目的に無必要なものを慈しむ。生活を飾ったり、読書をしたり、絵を描いたり、歌を歌う。ただやりたいから。衝動に身を任せる。社会のためではなく、自分の身体が自分のためにあるということ。
それができたら、他人に親切になりたい。相手と向き合って、観察して、相手のために行動する。間違っていたら修正していく。その繰り返しを怠りたくない。たとえ納得できなくても、理解はしていたいな。
心に刺さった文章
地球星人の世界に主人公・奈月がいた頃は、世界への視点に共感できた。胸が痛くなる箇所が多かった。一方で、後半のポハピピンポボピア星人になっていく彼らには、共感できない部分も多い。自分は地球星人の考え方に染まっていると気づいた。
家の中にゴミ箱があると便利だ。私はたぶん、この家のゴミ箱なのだと思う。父も母も姉も、嫌な気持ちが膨らむと私に向かってそれを捨てる。
母にはサンドバックが必要なのだろう。手ではなく言葉で殴ることで母の精神は少しだけは安定する
親指を握ると、手の中に暗闇ができる。上手くすると、手の中の暗闇を、真っ黒な、宇宙に近い色にすることができる。
大人は子供を性欲処理に使うのに、子供の意思でセックスをしたら馬鹿みたいに取り乱している。笑えて仕方がなかった。お前たちなんて世界の道具のくせに。私の子宮は今この瞬間、私のためだけにある。大人に殺されるまでは、私の身体は私のものなのだった。
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