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【邦画】火のつかないライターと一緒にするな「タイトル、拒絶」

様々な映画を見ていて、風俗嬢には2パターンあることか分かってきた。

ただお金が欲しい女と、ただセックスが好きな女。そして圧倒的に前者が8割。

このストーリーは「クレイジーバニー」と言う東京の風俗店を舞台に、金と性欲に塗れた男と女が本音でぶつかり合う人間の泥試合である。

タイトル、拒絶

カノウ(伊藤沙莉)の下着姿での独白から始まる。

「カチカチ山の芝居ででタヌキに立候補して当選した。だけどみんなは可愛いウサギに夢中で、タヌキになんて目もくれない。だからずっと憧れていた。」と言う。

カノウは風俗を始めたものの、いざホテルに入ると客との情事を全力で拒否、それ以来スタッフとして裏方をする。

この店の女性従業員はカノウの他にボス的存在アツコ(佐津川愛美)、熟女の元キャバシホ(片岡礼子)、明るい人気者マヒル(恒松祐里)、とにかくうるさいカナ(円井わん)、とにかく重いキョウコ(森田想)、地味でいつもノートに何か書いているチカ(行平あい佳)、途中から店に入った新入りの美人でクールなリユ(野崎智子)と、派手で浮いてるヤヨイ(大川原歩)。

男性はヤクザ気質の店長山下(般若)、金髪の運転担当良太(田中俊介)、普通な風貌だが酒癖が悪いハギオ(池田大)

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アツコとカナとキョウコが3人で騒いでいたところ、うるさいとシホに怒られてしまう。それをアツコがカナのせいにしたところカナが激怒し勝手に帰ってしまい、最終的に3人とも帰ってしまう。

それが原因で何故止められなかったのかとカノウは山下に殴られ、罰金3万円取られるパワハラを受ける。

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ある日アツコと山下が喧嘩している時、新人のリユに「ここにいる時点で社会不適合者、なのに何自分の価値を求めてるんですか」と存在意義を否定され、泣き喚く。

店の空気が凍りついていた時、その場にいたチカの電話に母から父が亡くなったと連絡があり、その知らせを知った途端、冷静でミステリアスだったチカが「そんなに簡単に泣かないでよ!」と権力者のアツコを怒鳴る。チカの感情が爆発した瞬間、店のみんなはあっけらかんとする。

チカはメガネで地味な服装で真面目そうな、夜の世界とは無縁の風貌だ。もしかしたら病気で入院していた父の治療費を稼ぐために、体を売ってお金を稼いでいたのかもしれない。

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山下が新人のヤヨイに「客にもし本番させられそうになったら陰部を噛んでいい」と言い仕事を行かせたところ、ヤヨイは本当に客の陰部を噛んでしまい大問題となる。その問題をカノウと良太に「お前が電話取ったせいだ」と擦りつける。(実際は山下本人が電話をとっていた。)

良太はわからないと言うも、山下に殴られる。

重い空気の中アツコが店に戻ると、山下とリユに謝れとせがむも「お前に構ってる暇ない」と山下に言われ、逆上したアツコは山下がアツコの他に店の女と体の関係を持っていたことを暴く。

「底辺女から性欲処理から何も残らない、それわかって来てんだろ?だからバカとブスは嫌いだ。俺が中出ししたら適当に掻き出しとけよ!ガキ出来たらお前がどうにかしとけ、ゴミらしく処分されるの待っとけよ、ここにいる時点で金をもらえるだけ感謝しろ!」と怒鳴り散らかす。

するとカノウは「...感謝って何?社会はエロと金で成り立ってるんすね(嘲笑)女に生まれてる時点でダメなんですね。ぶっ殺すなら生き返して見せろよ!ぶっ生き返せよ!好きでブスに生まれてきたわけでも好きでセックスしてるわけない!好きでも無い男とセックスして何になる!同じじゃん、男も女もみんな同じじゃん、変わらないじゃん」と感情的に大反論。山下はカノウを殴る。

すると突然、アツコはペットボトルの液体を店長とラグにぶちまけた。

ガソリンだった。

「誰か火貸して!こんなとこ、燃えてなくなっちゃえばいいんだよ!」と叫ぶと、影で見ていたマヒルが火のつかないライターを持って現れる。

「アツコさんさあ、本当にやるならライターぐらい用意しておきなよ!もう終わり!バーカ!バカバカバーカ!」と罵倒した。

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店は一部焦げた。全部は燃えなかった。焦げた店を片していた時、カノウとハギオは2人になりハギオと話した。

「ハギオさん、マヒルのこと好きですか?好きでなくても、ヤリたいとは思いませんか?」

ハギオは「もらうのに慣れてしまった。だから金を払ってまで女性とどうこうするする気にはならない」と打ち明ける。ハギオはマヒル、いやもはや風俗嬢の立場になっていた。

「どうしてそのこと私に話したんですか?」

「カノウとはそんな感じにならなさそうじゃん?」

ハギオの手にはうさぎのぬいぐるみ。カノウは”またウサギには成れなかった”絶望と、ハギオに密かに想いを寄せていた恋心が傷つき、泣いた。

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アツコは自己中心的で機嫌の上下が激しく、冒頭から口喧嘩になって仕事をぶちぎったり、ガソリン撒いて店を放火しようとしたり、渋谷の街中で山下を殺そうとしたり、行動が突発的でクレイジー。彼女にタイトルを付けるなら「厚化粧ヒステリックボスババア」だろうか。(本来は30代ぐらいだろうけどメイクやファッションはバブルを翻弄させる)

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運転担当の良太は一度キョウコとヤッてしまったことをきっかけに、キョウコに好かれ交際を迫られる。キョウコは手編みのマフラーをプレゼントしたり、弁当を作って渡したり、とにかく良太にまとわりついたり重い。だが最終的にキョウコの愛に負けて渋々付き合うことになる。

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主人公はカノウだけど、真の主人公はマヒルだと思う。平凡なタヌキのカノウより、だんだんと可愛いウサギのマヒルに焦点が当てられる演出もまたリアル。しかもマヒルの方が映画で得られる情報量がカノウより多い。根っからのヤリマンとか、妹がいるとか、ダメ親に育ったとか。

マヒルの笑顔は嘘っぽく、本心で笑っているようには見えない。「笑う門には福来る」の諺通り、彼女の周りでは難癖ある人間は多いものの問題を起こしたり起きたりぶつかることはほとんどない。

マヒルのいつも持っているライターは火がつかない。そもそもマヒルが喫煙者では無いのに何故ライターを持っていたのだろう。大切な人からもらったわけでも無さそうだ。火のつかないライターと自分と重ねていたのかもしれない。火のつかないライター=価値がない。

マヒルの妹の和代(モトーラ世理奈)は妊娠している。どこかのビルの線路が見える屋上での2人の会話は、母親も毒親で男にだらしない様子が会話から伺える。

和代はマヒルに「もっと普通に痛がりなよ」と忠告した。

マヒルは「私は私の中にゴミを詰め込んでバランスとって生きているんだから、それの何が悪いってうの!」とまた痛がる。

彼女の人生で、どうしてそうなったのかは自然の成り行きだとは思うが、いつしかマヒルにとっての「痛がる」は「笑う」になってしまっていた。

姉を感情が麻痺し人間ではなくアンドロイドになったと思った和代は「ご愁傷様」とタバコを捨て火を消し、マヒルを置き去りにした。

映画のシメはマヒルの「お腹減ったなあ」というセリフなのだが、シンプルが故に単純に胃袋の食欲のお腹減ったとの、お金が無いでも、性欲を満たしたいとも読み取れる。

カノウにタイトルを付けるなら「拒絶出来る女」、マヒルにタイトルを付けるなら「拒絶しない女」。

彼女彼らの人生にタイトルをつけようとしても「そんな薄っぺらくない」と拒絶するだろう。あの強すぎる生命力ならそう思う。

取り柄のない人間は意味ないのかもしれない、火のつかないライターと同じで

現代、ジェンダーが主流となっているのにここまで清々と男、女、で区別できるのはここの店で働く男も女も、自らゴミだと自覚しているにも関わらず人間という動物としての生命力が凄まじいからだと思う。男は男で大変だけどさ、女は女で無惨だよね。

夜の世界は私にとって行くのも働くのも無縁の世界なのに、この映画を見てど刺されて数時間は死んでいた。知らんぷりしていた劣等感とか、蓋をしていた過去とかが、見終えた後にはゴミ箱を倒したときのように散乱してた。

マヒルのように笑って痛みをごまかして、ゴミを上手に詰め込んで保っていればいいのだけど、マヒルみたいに器用じゃない。

自分の中にあるゴミは捨てたいけど、取れないカビと同じで見て見ぬふり、放って置くことしかできない。自分が自分を綺麗にすることなんて、外見しか出来ない。

プライドなんてあって無いようなもので、迷惑をかけなければいいと自分の中で何かを正当化しようとする。人気者のウサギにはなれない、だからタヌキと言うウサギのモブとして生きるしかないと。

火のつかないライターと一緒にするなと拒んでも無駄なんだ、既に自分自身が火のつかないライターなのだから。


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