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【ライブレポート】神はサイコロを振らない「エーテルの正体」/ZeppTokyo.2021.5.30
初めて神サイのライブを見たのは2016年5月、渋谷O-crestのライブだった。
ライブ終了後、グッズを買おうと物販により立っていたボーカルの柳田さんに「CDありますか?」と聞いたら「今日は持ってきてないんですよ〜!」と言われ結局「またライブ行きます」と言い握手をしてもらい、ライブハウスを出た思い出がある。それは衝撃だった、遥々福岡から東京にライブしにきたのに肝心なCDを持ってきていないのだから。
そんなおっちょこちょいな彼らだが、ライブに間違いはなかった。必ず売れると、神サイは必ず羽ばたくと、そう確信した。
あれから5年経ち、彼らはZepp Tokyoに立つ。ここはアーティストなら誰もが憧れる場所であり、たくさんのバンドマンもここに立ってきた歴史あるライブハウスだ。行かないという選択肢が無かった。
ライブレポート
1曲目はステージに置いてあった白い幕が天の川のように揺れると「クロノグラフ彗星」からスタート。続けて官能的な「揺らめいて候」と色気のある轟音を掻き鳴らす。
メジャーデビュー第1弾シングルとなった「泡沫花火」では、繊細なレーザーと共に歌い上げる。「泡沫花火」の演出は金魚すくいや花火を見ているかのような一夏の恋を連想させる夏祭りの情緒を感じつつも、音楽は線香花火そのもののように意志を持ちながら一瞬の儚さを全うしていて、曲として成立しているにも関わらずどちらも連想できてしまう不思議な切なさがあった。
「こんな時にライブに来てくれてありがとうございます。初めての神サイのライブ来た人いますか?…バラードから情緒不安定な曲がありますが、神サイのこと知ってくれると嬉しいです。」
「神サイはロックバンドなのでロックバンドらしい曲やります!」と「解放宣言」を投下。
よぴのカッティングが映える「パーフェクト・ルーキーズ」のスピード感と存在感は圧巻だった。神サイは世界観が先行した美麗な日本語の歌詞に対比し、「パーフェクト・ルーキーズ」は飾らずストレートで具現的な野心剥き出しの歌詞が特徴だ。
< 10代でステージに立ってるアイツが羨ましくてさ >
アイツ、以前から柳田の憧れだと公言していた盟友・Ivy to fraudulent gameの寺口のことだろうかと推測する。
神サイは初期から変わらぬ立派に地に足が着いた力強くも幽玄で優美な世界観は一貫としているのだが、ライブに関しては若手ロックバンドのなかでも突出して色気が出てきて余裕を感じるようになった。
立て続けに演奏されてきたリズムを刻むロックな重厚サウンドから雰囲気は一変、ステージにスモークが炊かれると幻想的で神秘な雰囲気に様変わりする。
すると今や今かとこの会場全てのひとが待ち構えていた「夜永唄」が響きはじめた。神はサイコロを振らないを世に知らしめた1曲だ。
2020年当時のニュース記事では「BUMP OF CHICKENの『記念撮影』に次ぐ1000万回再生突破のリリックビデオとなった」とあるが、今日YouTubeを見てみたら2180万回再生と倍の再生回数になっていた。BUMP OF CHICKENの記念撮影を超えて堂々国内のリリックビデオ再生回数1位(非公式)となり、いつの間にか彼らは日本を代表するビックバンドを並び超えた大快挙を成し遂げていた。
「初めての人に説明すると、神サイは福岡が地元のバンドで、福岡で2年育ててもらってから上京しました。東京きてからも大変なことがあって、ギスギスしたこともあったけど、みんなのおかげで続けてこれました。」
「コロナ禍で音楽業界も大変になって、ミュージシャンはライブが出来なくなった。神サイはフレンドリーなバンドで、今までライブとかでファンとも交流出来たけどそれも出来ない。それでも僕らにSNSでおめでとうとか、ありがとうとか、そういうメッセージを2020年に沢山もらった。その中で、とある男の子からメッセージをもらった。”生きる意味が分からなくなってしまったけど、神サイの曲を聴いて勇気をもらっている”と。このメッセージを見て音楽をやる理由が合致した気がした。求められればライブもやるし、音楽をやり続けます」
「俺らは愛を投げます!なので打ち返してください!」と柳田が言い放つと、ドラマ「ヒミツのアイちゃん」主題歌の「1on1」と青春を堪能する輝かしいほどに爽やかで青いトラックを届ける。続けてアニメタイアップ「ワールドトリガー」主題歌の「未来永劫」へ、「1on1」の若き甘酸っぱい青さを受け継ぐ。
本編ラストは彼らのブレイクのきっかけとなったTikTokのCM曲「巡る巡る」。七色の優しいパステルカラーに染まるステージに、桜舞う春に相応しい爽やかな疾走感に飛び躍り、フロアは今ライブで最高潮の熱気を帯びる。とにかく気持ちがよく爽快、それでも神サイの良さを残しつつもなおポップで、彼らの新境地を見たような気がした。
「巡る巡る」、この曲は「秋明菊」「夜永唄」に並ぶ神サイの代表曲になるかもしれない。
アンコールの拍手が鳴り響きメンバーは再登場。
本編では柳田のギターがステージに置いてあるにも関わらず、1回もギターを弾かずに全ての曲をマイク1本で歌い通した。そんな柳田が今ライブで唯一愛用のテレキャスターを持って演奏したのは2016年に発表した「秋明菊」。
神サイの持ち味は動と静。特に「秋明菊」は静寂と激情が両立しておりなお美しく、後半に畳み掛ける轟音のぶつかり合いに圧倒された。今まで300人も入らないような小さなライブハウスで見てきたが「秋明菊」が、Zepp Tokyoという選ばれしものだけが立てる大きなライブハウスで聴く「秋明菊」は格別だった。
「再開発でZepp Tokyoが無くなる予定だからここでやるのは最初で最後。そう聞いてるんだけど、間違ってたらごめん。Zepp Tokyoは学生の頃からの憧れだった。自分の憧れの人が立ってたし、惜しくも立てなかったひともいる。今までこのステージに染み付いた汗が、血もあるかもしれないけど、キラキラ輝いてる星空に見える。急にロマンチックなこと言うけど、今まで爆発して無くなった星もあれば、今輝いてる星もある。」
「ここにきている人は音楽を愛している人。愛しているは恥ずべきことでも後ろめたいことでもない、堂々と愛していることを言おう」
「照明見た?このレーザー!違う会場でレーザーの存在知らなくて近くでパソコンぽちぽちやってたらいつの間にか俺の黒いTシャツが焼けてた。あと最初のこの白い幕も今日まで知らなかった。こういう演出を考えてくれるのはチーム神サイです。今日はきてくれてありがとう、Zeppに連れてってくれてありがとう、これからも神サイの4人をよろしくお願いします。」
柳田は何度も何度も「ありがとう」とお礼を述べた。緊急事態宣言下でもライブをやってくれたことに対してこちらの方がお礼を言いたい。ライブをやってくれてありがとう。
最後は「illumination」で約1時間半とライブは終演。全身全霊、持っている全ての熱量を曲に魂を宿していた。
神サイは不思議だ。ステージはあんなに熱気が激烈としているのに、曲を受け取ると清泉のように神々しく涼やかなのだ。それはきっと柳田が紡ぐ由緒ある日本語の歌詞がそうさせているのだと思う。
どれだけ美麗なバラードに強みを感じても、どっしりとした轟音と力強く寄り添う柳田の声が、神はサイコロを振らないは「ロックバンド」なのだと改めて知らされた。
「エーテルの正体」は音楽だった
エーテルにはいくつか意味が存在するが、大まかに語源上では「輝いているもの」の意、科学的には「光を伝達する媒体と仮想されたが相対性理論によりエーテルは存在しないという結論に至った≒幻」というエピソードがある。神サイはエーテルの意味として前者を採用している。
極論だが、エーテルは音楽だと思う。
柳田が上記のセルフライナーノーツで何故「エーテルの正体」というタイトルにしたのか、こう綴っている。
「誰かの人生を”光”に置き換えた時、どんなに深い悲しみや苦しみを背負ったとしても、僕らの音楽が誰かの人生の背景となり、媒質となり、生き抜いてゆく為の道標となる事を願って。
作品を作っていく中で音楽そのものが、音楽こそが”エーテル”であるという事に気付き始めた事から今作を『エーテルの正体』と命名しました。 」
エーテルと音楽に完全に共通するのは「常に輝いているもの」であるということ。
私はそれに加えて、性質も非常に似ていると思うのだ。エーテルは当初形のない架空の媒体とされていたが、結果エーテルは幻という結論になった。音楽もまた形では無いし、誰かに聴いてもらわないと曲として成立せず、幻になってしまう儚いものだ。
だからエーテルの正体はまだ発見されていない科学的な根拠を追求していた時代を超えて、音楽にも当て嵌まると私は思う。
どうして神サイの音楽はこんなにも神秘的なのだろうと紐解いていくと、こうしてエーテル含む輝かしいとされていた幻や、宇宙の壮大さが起源であることが分かってくる。
巡り巡れ
最初に神サイを見たのは2016年だが、神サイのワンマンライブを見たのは2017年の下北沢モザイク以来だ。この時点で既に確立された世界観も力量も十二分に持っていた。ただ、世間が神サイの音楽をまだ見つけられていなかっただけだったように思う。
それから考えるとZepp Tokyoは単純計算で10倍のもキャパだ。そんな小さなライブハウスから大きなステージに立つその姿を見て、涙が堪えられるはずなかった。
今日のライブに来たファンはおおよそ半分がはじめてだという。そうなると必然的にその半分は神サイのライブに行ったことある人達となる。
今まで神サイのライブに行っていた人は私含めて「夜永唄」のロングヒットでインディーズ以前の曲は演奏しなくなってしまうのだろうと物寂しい思いがあったと思う。実際今回のセットリストは2019年以降発表の曲が中心だったからだ。
だけど神サイは、初めてライブに来たファンも、昔からのファンも、これから出会う未来のファンも、いつ神サイを好きになったかなんてどうでもよく、目の前にいるファンを大切にしていたように思えた。だからそんな心配はどうでも良くなった。ビギナーに優しいサブスクにある曲らライブのほとんどを占めても、たった一曲弾いた「秋明菊」という神サイを飛躍させた曲を演奏してくれただけで、ワンマンライブとして十分なバランスが取れていたのだ。
ライブに行って、神サイの音楽は心の栄養補給に必要不可欠だと改めて気づかせてくれる。ライブに行って、”この日のために生きててよかった”と思わせてくれる。そう思わせてくれるバンドはきっと真のロックバンドだ。
胸を張って音楽を愛そう、また神サイと”巡り巡る”日が来るまで。
セットリスト
1. クロノグラフ彗星
2. 揺らめいて候
3. 遺言状
4. 泡沫花火
5. 胡蝶蘭
6. 解放宣言
7. パーフェクト・ルーキーズ
8. ジュブナイルに捧ぐ
9. 夜永唄
10. プラトニックラブ
11. 1on1
12. 未来永劫
13. 巡る巡る
en1.秋明菊
en2.illumination
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