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ハッピーバースデー嫁
「ねえ嫁ちゃん」
「なんだい夫くん」
「来週はきみの誕生日だね、おめでとう」
「ありがとう」
「普段行かないランチでも食べに行かない?」
「いいね!どこに行くの?」
「A店とB店の候補がある。どっちが好み?」
「ふむ…A店とB店か。悩むなぁ」
「ぼくはA店が良いと思うんだよね」
「よし決めた、C店にしよう!」
「なんッでやねん!」
「ふぁっ!?」
「A店かB店ってゆっとろーが!
どっからC店が出てきたんじゃああ」
「いやあ、だってほら、C店の方面には
私の好きなブランドの服屋があるんだよ」
「なんやて!ほんまかいな」
「ほんまほんま」
「あれ?でもそのお店、潰れなかったっけ」
「一度潰れたんだけど、また出店したんだよ」
「マジかいな」
「マジですのん」
「そういうことなら仕方ない。C店にしよう」
「やったぜ!」
・・・
■誕生日当日。車内にて
「ねえ嫁ちゃん」
「なんだい夫くん」
「車内で“今日から俺は!!”の映画を
大音量で流しているのか説明を頼むよ」
「夫くんが観たいって言っていたから」
「ぼくは今運転中なのだが」
「私が実況してあげるから」
「そういう話じゃなくてね」
「でも、観たいんでしょ?」
「家でゆっくり観たいよね」
「車内も家みたいなものだから多少はね」
「だめだ話が通じない。助けてポリス」
「ほらほら磯村勇人が出てるよ」
「ほんとだ!なぜここにジルベールが!」
「良い俳優さんだよね」
「“きのう何食べた?”とのギャップが凄い」
「面白い映画だよね」
「観ながら運転は事故るから勘弁してくれ」
「ちっ。じゃあ歌番組に替えてあげよう」
「今、ちっ、って言った?」
「言ってないよ」
・・・
■嫁の好きなブランドの服屋さんにて
「ねえ嫁ちゃん」
「なんだい夫くん」
「この店ってメンズはないのかい?」
「この店舗だとレディースだけみたいね」
「そうか。相変わらず攻めた服ばっかりだね」
「そこがいいんじゃないの」
「たしかに、見てるだけで楽しいね」
「ねえ、この服、どっちの色がいいかな」
「黒とベージュか。うーん、ベージュかな」
「どっちも良くて迷っているんだよね」
「でもさ、このデザインありきたりじゃない?
こっちの、マネキンが着てる服も良いと思う」
「へえ、夫くん、これを私に着てほしいの?」
「ぼくが店内ぐるっと見回った結果
一番ビビッと来たのはこのマネキンの服だよ」
「へえ、じゃあ、買ってくれるの?」
その服とってもお客様にお似合いですよ~
(唐突に店員さん)
「ですよね、店員さんもそう思いますよね!」
はい~。厚手のボア生地が
お客様の可愛らしさに
拍車をかけちゃいますよね~
「夫くんが買ってくれるならこれにしようかな」
「いいけど、きみ、ちゃんと着てくれるの?
このタイプの服あんまり着ないじゃない」
「着るよ~。着るに決まってるよ」
なんだかラブい会話を感じます~
「そっか。じゃあ、買おう」
「ありがとう」
「・・・」
「・・・?」
「・・・」
「・・・夫くん、レジに行かないの?」
「えっ、ぼくに、女性専門の服屋で
レジで会計してこいっていうのかい!?」
「そーだよ」
「はい」
・・・
■昼食の時間
「ねえ嫁ちゃん」
「なんだい夫くん」
「ぼくは今、猛烈にお腹が空いているんだ」
「奇遇だね、私もだよ」
「今日はスペシャルに特別な日だから
やってみたいことがあるんだよね」
「と、いいますと?」
「ここはフードコート。周りには美味しそうな
食べ物屋さんがズラリと並んでいるよね」
「そうだね(ごくり)」
「二食、食べてみたいんだ」
「二食…?」
「冷麺とラーメンの、二食喰いをしたいんだ!」
「マジかよ夫くん」
「ダイエット中とは思えない、愚かなぼくを
どうか許してほしい。見逃してほしい」
「いいでしょう。見逃してあげませう」
「あなたが神か」
「私も食べよう」
「えっ」
「私は辛麺と海鮮丼行ってみようかな」
「えっ」
「さあ夫くん、並ぶよ!グズグズしない!」
「はい」
三十分後、お腹がはち切れそうな夫婦が
テーブルに突っ伏して蠢いていたのでした。
その表情は苦悶と恍惚が入り乱れていたそうな。
・・・
■買い物も終わって
「ねえ嫁ちゃん」
「なんだい夫くん」
「今日はめっちゃ楽しかったよ」
「私も、充実した買い物日和だったよ」
「普段行かない店に行くのは楽しいね」
「そうだね。また来ようね」
「今日、めちゃくちゃ買ったよね」
「うん。一度車に荷物置きに来たもんね」
「まあ誕生日だから、少しくらいいいよね」
「そうそう。私の誕生日だからね」
「あらためて、誕生日おめでとう」
「また一年、よろしくね」
「うん。じゃあ帰ろう」
「帰ろう」