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戦慄のクリスマスケーキ

私はクリスマスケーキが好きだ。大好きだ。

子どもの頃、ウチではケーキなど贅沢品。
日本男児は固ぁいせんべいを食すべしッ!
とでもいわんばかりにウチではせんべいが
出てきた気がする。

いや、せんべいは大好きなのだ。
しょっぱいお菓子は最高なのだ。
でも甘ぁいお菓子もまた大好きなのだ。

そして私は結婚して分かったのだ。
嫁と一緒に食べるケーキが美味しいことに。

・甘いお菓子
・辛いお菓子
・しょっぱいお菓子

どれもみんな、嫁と一緒に美味しく食べられる。
これほど幸福なことがあるだろうか?いやない。
私は常々、嫁と食の相性がピッタンコなことを
噛みしめて生きているのだ。まこと幸せである。

そうそう、クリスマスケーキの話。

今日は大好きすぎるケーキなのに
戦慄してしまった話を記していこうと思う。

戦慄:おそれ、おののくこと。
緊張や恐怖で体がガタガタ震えるさま。

・・・

嫁と付き合って二回目のクリスマスのこと。
私たちは静岡に旅行していた。

当時重度の楽天ファンだった私は
楽天トラベルという旅行サービスに傾倒しており
嫁と休みの日程が合おうものなら

「どこか行こう!行きたいよね。ね!」

と泊りがけの旅行に(強引に)誘っていた。
旅先では気分がおおらかになるので
若い情熱を消化するのに旅はうってつけである。
私は暇さえあれば『お得な宿』を探していて
嫁と旅行の空想を話し合うのが大好きだった。

その年のクリスマスを静岡で過ごそうぞと
決まった理由はズバリ『お得すぎるプラン』。

古式ゆかしい日本家屋の風情が滲み出る旅館。
広さと優雅さが同居している大浴場。
二人で過ごすのにはやや広めの部屋。
海の幸を惜しげもなく盛り込んだ食事。

絶対お高いだろこんなお部屋!
というオーラがビンビン伝わる内容なのに
早期予約&カップル限定&楽天トラベル価格
というよく分からないマジックにかかれば

「えっ、こんなに安くていいのか!?」

と驚きの値段に早変わり。普段から
楽天トラベルをチェックしていた私から見ても
二度見してしまうほどの掘り出し物である。
迷うことなくクリスマスを委ねたわけだ。

今の私からしてみたら
(安いのには裏があるんじゃないのか…?)
と勘ぐってしまい即決とはいかないだろうけど
当時の私はそんなことはお構いなし。
『お得=正義』である。
うーむ若いってスバらしい。

・・・

旅行当日、私たちは驚愕した。
予想を遥かに上回り旅館が素敵だったのである。

ホームページの写真よりも映える外観。
おもてなしの心が佇まいから伝わる仲居さん。
きし、きし、と上品な感じに軋む廊下。
落ち着く館内。広すぎてちょっと引く部屋。
骨までリラックスした気分になれる大浴場。
そして私の刺身嫌いを一発で吹っ飛ばした食事。

「メリークリスマス」

普段飲まないビールで乾杯する私たち。

おれがサンタだ!わっはっは
酔ってそんなことをのたまっていた気がする。
とにかく私たちはめちゃくちゃ浮かれていた。

・・・

「ふー、食べた食べた」

大満足の大満足の大大満足である。
とにかく夕食が豪勢すぎて美味すぎた。
こんなに美味しくて、このボリューム。
ちょいとサービスが過ぎるぜ女将さん。
いや本当にありがとうございます。

私たちは二人揃って女将さんを拝んだ。
もちろん誰もいない空間に向かってである。

「失礼します」

その瞬間、仲居さんから声をかけられ
視線を向けるとギョッ!としてしまった。

仲居さんが両手で抱えていたからだ。
大きなクリスマスケーキを。

ああ、そうだった。すっかり忘れていた。
今回のプランはクリスマスケーキ付きだった。
そういえば夕食の後にケーキが来るんだった。

しかし…すでに満腹でハラがはち切れそう
浴衣の帯は限界まで解き放たれている。

私は嫁と顔を見合わせ、こう言った。

「よーし来た来た。待ってたんだよね!」

私はあれなのだ。
良いカッコしいなのだ。
好きな女性の前で失態なんて犯したくないのだ。

このケーキが来ることなんて知ってたし
おれ、まだまだ余裕で食えるし
やっぱ締めは甘いモノだよね!クリスマスだし!
…的なことをのたまっていたと思う。

ケーキを半分くらい食べたところで
私はギブアップした。


この記事は「仲良し夫婦サークル」の
企画参加記事であります。

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