ブリ大根とアライグマ
「今夜はブリ大根よ」
僥倖。なんという僥倖。
新年初ブリ大根が食べれるという希望は
こんなにも心を軽やかにするものなのか。
朝から最高の気分で仕事場へ向かうぼく。
黙っていても笑顔が止まらない。今日も
ウキウキに仕事をこなして颯爽と帰宅だ。
実はぼくはブリ大根が好きではなかった。
「ええ…魚に、大根?なんかしょぼい…」
色合いも地味だし味もしょっぱい。
おまけに魚も煮詰まって身が固い。
これのどこに美味しい要素がある?
自分でもわがままな子供だったと思う。
ある日嫁ちゃんの料理を食べて稲妻が走る。
(えっ…このブリ大根…美味すぎ?)
煮物系の美味しさに定評のある嫁ちゃんは
ブリ大根を別次元の美味さで仕上げてくる。
一度食べて以来すっかり虜になった料理だ。
・・・
「ただいまー!」
キッチンへ突撃するとおお!
いるじゃないですかブリ大根先生!
あっ、あなたはみそポテト先輩!?
えっ、まさかメンチカツ君までいたの?
山盛りキャベツさんを引き連れてるし!
思わずうろたえるぼく。
なにしろご飯の主役を張れる連中が
俺が俺がと一堂に会していたのである。
「おかえり。どれ食べる?」
「全部」
「うっひっひ。だよね」
ご飯を山盛りによそって欲望全開の夕食。
カロリー?コレステロール?健康診断?
大丈夫、まだ正月だから。正月はセーフだから。
誰かに言い訳しながら食べる飯はウマい!
あーもうダメ。おかわり。ばくばく。ふう。
そういえば最近ぼくにスイッチが内臓された。
その名もアライグマスイッチ(命名:嫁)。
美味しいご飯を食べるとスイッチが入って
ふらふらと流し台へ向かい洗い物が始まる。
頭は幸せホルモンがドバドバ出て幻惑気味。
体は手が勝手に動き食器を洗うシステムだ。
自分でもどうやって内臓したのか不明だが
気付いたら洗い物が完了しているので便利。
めちゃめちゃに使えるスイッチなのである。
しかし昨日は嫁ちゃんの動きが不可解だった。
「ワンツー!ワンツー!ワンツー!ワンツー!」
アライグマモード中の、ぼくの背後に立つと
ぼくの尻に膝蹴りを交互に叩き込む嫁ちゃん。
DVか?ドメスティックバイオレンスなのか?
「ねえ、ぼくの尻に膝蹴りしまくるのは何故?」
「ほら私、正月食べ過ぎたからエクササイズよ」
そっか、エクササイズならしょうがないね。
はいワンツーワンツー。
「ちょっと洗い物の邪魔なんだけど・・・」
「私は痩せるし、夫くんはお尻が強くなる。
これって二人とも超プラスでしょ。ワンツー!」
なるほど、そうだったのか。
ぼくのお尻のためを思って…!
「いや、ンなわけないじゃん。やめとくれよ」
「まあまあ、私がブルマン淹れてあげるから」
いくらでもエクササイズしてください、はい。
ぼくのお尻で良ければいくらでも、はい。
今日の夕食も平和だった。