国際人権法の法源
1・慣習国際法としての国際人権法
慣習国際法は、国家間で行われてきた慣行が国際法として承認されるにいたった規則であり、同意にかかわらず、成立要件が満たされれば、すべての国家を拘束する。慣習国際法の成立要件は、国家間での一般的慣行の存在、それから、諸国家の法的信念の存在があげられる。
(1)一般国際法
慣習国際法の重要性は、人権条約の多くまたは一部を受け入れていない諸国に対し、特に認められる。国際司法裁判所は、国家が国際社会全体に対して負っている「対世的義務」が導き出される例として、「奴隷制及び人種差別からの保護を含む、人間の基本的な権利に関する原則及び規則」などをあげ(バルセロナ・トラクション事件判決)、人権に関わる一定の原則や規則が慣習国際法の一部となっていることを認めている。
東澤靖によれば、自由権規約委員会は、国家が留保を行うことによって義務を免れることができない慣習国際法上の人権として、以下の権利をあげている(HRC:GC24(8))。
①奴隷制の禁止
②拷問・残虐な非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の禁止
③人の生命の恣意的なはく奪・恣意的な逮捕及び抑留の禁止
④思想・良心・宗教の自由
⑤無罪の推定、妊婦・子どもに対する死刑執行の禁止
⑥民族・人種・宗教による憎悪の唱道の禁止
⑦婚姻年齢にある者の結婚の権利
⑧少数者が自己の文化を享受し、宗教を信仰し言語を使用する権利
(2)強行規範
「強行規範」は、国が合意によってその適用を排除することができない規範である。東澤靖によれば、これまでの人権に関わる国際機関の先例では、奴隷制の禁止、拷問・残虐な非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の禁止、組織的な人種差別、恣意的な殺害などがあげられるとされる。
2・条約としての国際人権法
現代では、条約案の作成にNGOが大きな貢献を果たしており、1989年に国連総会で採択された子どもの権利条約の場合も、Defense for Children International等のNGOが条約の起草段階に参加し、2007年に採択された障がい者の権利条約では、日本を含む各国の障害者団体が大きく貢献したことが知られている。
(1)条約の留保と解釈宣言
国家が条約に同意する際に、条約の一部の規定について自国に対する適用を排除・変更する声明を行うことを、条約の「留保」という。人権条約の各条項が特定の国に適用されるかを判断するためには、その条約を批准・加入しているかに加えて、留保がなされているか、その留保が禁止されたものではないかを確認する必要がある。
「解釈宣言」とは、条約の規定に対する自国の解釈を特定して宣言することである。自由権規約委員会は、自由権規約の法的効果を排除・変更する意図を持つ場合には、解釈宣言を留保と同視し、同規約の趣旨及び目的に矛盾するものでないかを検討するとしている。
(2)条約の解釈
人権条約も、条約である以上、基本的には条約法条約の解釈の規則に従うことになる。条約法条約31条によれば、「条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする」とされている。文脈としては、条約締結の際の関係国の合意や、事後の関係国の合意や慣行なども考慮される。
3・「ソフト・ロー」
途上国が国連や国際会議で多数を占め、法的拘束力がない決議や宣言を多数決で採択できるようになったことを背景に、これらの決議や宣言は、完全な法、ハード・ローではないが、法的表現を用いており、柔らかな法、ソフト・ロー・として、規範的意味を持つと主張された。人権に関わるソフト・ローは、諸国に対して自発的な受け入れを期待する勧告や指針以上の力を持たないが、人権の内容を発展させ、人権保障の履行を促すために、重要な役割を持っている。
たとえば、国内避難民担当事務総長代表に任命されたフランシス・デンは、1998年、国連人権委員会に対し、「国内避難民に関する指針原則」を提出した。この指針原則は、法的拘束力はないものの、国内避難民が享受すべき権利と領域国の義務を述べている点で画期的な文書であり、国内避難民の保護と援助にあたる政府機関・国際機関・NGOにとっての活動の指針として、重要な役割を担っている。
<参考文献>東澤靖『国際人権法講義』/芹田健太郎・薬師寺公夫・坂元茂樹『ブリッジブック国際人権法第2版』/岩沢雄司『国際法』