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小学校における「情報を学ぶ時間」新設の提案に向けて

「小・中・高等学校における情報教育の体系的な学習を目指したカリキュラムモデル案」シリーズ②

みんなのコードは、2024年7月に次期学習指導要領に向けての提言「小・中・高等学校における情報教育の体系的な学習を目指したカリキュラムモデル案」を発表しました。

小学校段階については「情報を学ぶ時間」を新設する提案をしています。この提案について、小学校を担当している未来の学び探究部の宮島と竹谷が、現状の課題に始まり、新しい時間を設定する意義、そして創造的態度の育成まで熱く語り合いました。

教育関係者はもちろん、子どもの教育に関心のある全ての方々にとって、情報教育の未来への展望が開けてくる内容になっていたらうれしいなと思います。ぜひお読みください。

※この記事はみんなのコードコーポレートサイトからの転載です。

プロフィール
竹谷 正明

東京都公立小学校教諭として30年間勤務。一人1台端末やプログラミングを取り入れた授業の実践に取り組む。2017年、みんなのコードに参画し、講師として全国の学校や教育委員会にてプログラミング教育普及のための研修などの活動を進めている。また積極的にSNSで教育やプログラミングなど全国の先生方に向けて現場で役立つ情報発信をしている。

宮島 衣瑛
1997年5月生まれ。修士(教育学)。2013年より千葉県柏市で小中学生向けプログラミング道場「CoderDojo Kashiwa」を主催し、全国でICT教育の実践・研究を行う。2015年に株式会社Innovation Powerを設立し、代表取締役社長兼CEOを務める。2017年から一般社団法人CoderDojo Japanの理事を務め、文部科学省の委員や柏市の各種委員会でも活動。2022年にNPO法人みんなのコード特任研究員に就任。2023年から逗子オルタナティブスクールFRASCOのカリキュラムディレクター(理事)、2024年からは白梅学園大学の非常勤講師も務める。大学院ではコンピュータ教育の研究に取り組んでいる。


現状の課題

竹谷:まずは情報教育の現在地をどう捉えるかというところから話しましょうか。私は、小学校で情報教育の研究に現場にいるときから長く関わってきました。その経験を踏まえて見ると以前に比べれば進んだ面もありますが、現在の小学校段階における情報教育にはまだ課題があります。まず、現行の学習指導要領では、どの教科にも「コンピュータ(や情報通信ネットワーク)などを適切に活用し」のような記述が必ず入っています。しかし、各教科の学習内容と密接に結び付いた形で扱うことになっているので、普遍的な力として身に付けることが難しいのです。

また、明確な実施時間が指定されていないため、十分に扱われない可能性があります。

さらに、教員の理解やスキルにも差があり、結果として取り組みの度合いに地域や学校による差が生じています。

例えば、国語科と比較すると、その違いがより際立ちます。国語科では、書写や作文について、時間配当が明確に決められています。情報教育で目指したい資質・能力を効果的に育成するためには、国語科の書写や作文のように、ある程度独立した形で時間を確保し、体系的に指導する必要があるのではないかと思うんです。

宮島:そうですね。現場では、先生の裁量に委ねられる部分が多く、熱心な先生は積極的に取り組む一方で、そうでない場合もあります。

情報について学ぶことが全ての子どもたちにとって必要不可欠であるという認識は、まだ定着していないように感じます。

現行の学習指導要領において、情報活用能力が言語能力と同様に学習の基盤となる資質・能力として位置づけられたことは、大きな転換点だと言えます。しかし、GIGAスクール構想の実施により教育環境は劇的に変化したにもかかわらず、それに見合った授業時間が確保されていないという課題が浮き彫りになっています。

なぜ 「時間」として位置付けるか

竹谷小学校では、教科としてではなく、「情報を学ぶ時間」として提案しています。これには意図があって、教科として内容を規定し、教科書を作成して評定もするとなると、児童の学びやすさや教師の取り組みやすさの面からいって、全国どこの小学校でも実現するには難しい部分が出てくると考えたからです。

宮島:評価の問題や自由度の問題を考えると、「時間」という枠組みは今回の提案の目的に合った良い着地点だと思います。

提案したカリキュラムモデル案には系統表が含まれていますが、これをすべて網羅的に実施することは現実的ではありません。学校や教師の裁量で、系統表をどのように活用するかを決められる柔軟性が重要です。

また、私たちが提案している「情報を学ぶ時間」は、情報活用能力を育むためだけの時間ではないということも、改めて確認しておきたいところです。

竹谷:学ぶことについて考えると、例えば「作ることで学ぶ」というアプローチもそうですが、学習観というものが大きく問われてくるように感じます。従来の「既存の価値あるコンテンツを教師が伝達し、それを子どもたちが習得していく」というモデルから、「子どもたちが周りの人々や環境とかかわり合うことを通して、体験を抽象化・関連付け・構造化する過程で、知識を自らの内に構築していく」というモデルに移行していく必要があるということです。

学習観にはいろいろな種類があると思いますが、今後はやはり、子どもたち自身が自分の中に知識を構築していくような学習観が重要になってくるでしょう。

宮島:小・中・高等学校における情報教育の体系的な学習を目指したカリキュラムモデル案の総則の中でも述べたとおり、「情報を学ぶ時間」では表現や創造を通した学びが重要になってきますね。一方で、これは子どもだけに求められるわけではないとも思っています。おもしろい授業をする先生や、子どもたちに深い学びを提供する先生を見ていると、自らも楽しんで創造的な活動をしていることに気付きます。

創造性というと、特定の人だけが持っている能力のように感じられてしまうかもしれませんが、私は身の回りのちょっとしたことでも「こんなことができるかもしれない」というアイデアを試す力だと思っています。様々な課題に対して創造的に取り組む態度(創造的態度)と言い換えることもできるでしょう。

竹谷:本当に小さなことでもおもしろがる力が大切ですね。ちょっとしたことを楽しんだり、思いついたことを試してみることがベースになって、次のステップに進む力になると思います。だからこそ、「時間」として位置付ける方が、より効果的なのですよね。

教材研究と教師の学び

宮島:そうした授業を実現するとなると、先生たち自身も作ることが重要です。例えば、理科の実験キットを使う場合、子どもたちには作らせるのに、先生たちは作らないというような状況では、先生たちの理解も深まりません。実際に作ることを通してこそ、理解が構築されるからです。

竹谷:その通りですね。既存の教材に頼るだけでなく、自分たちで考えることが必要です。先生たちが事例を見て、自分なりの視点で再構築してほしいんですよね。

例えば、
「このやり方でもいいけど、もう少しこちらの方法を取り入れたら?」
「この要素と組み合わせたら、子どもの力がより高まるんじゃない?」
といったふうに考えられたらいいなあと。
そういう意味では、私たちは単に提案して終わりではなくて、実際に具現化していく過程まで考えていかなくてはなりませんね。

つまり、教師向けの研修はもちろん、先生方が自ら学んでいくプロセスをどのように支援できるかが非常に大切になってきます。そして、先生の不安や負担感をどう軽減するかも重要なポイントになります。

カリキュラムモデル案の特徴

宮島:このカリキュラムモデル案は、実践から生まれてきたものが多いです。事例集に掲載されている授業を始め、多くの先生方の授業と子どもたちの学びを参観させていただく中から考えたものになります。

竹谷現場から多くの示唆を受けられたことは今回の提言を出す上で大きな力になりました。それが私たちの活動の基盤となり、子どもたちに向き合っている先生たちの実践が最終的には子どもたちに還元されます。

このカリキュラムモデル案を提案し、それを基に先生たちが実践を組み替えていく。その実践事例がまたモデルにフィードバックされ、少しずつ進化していくというサイクルができれば最高です。

小学校から高校までの一貫性

宮島:カリキュラムモデル案を作成する過程で、小学校・中学校・高校段階でそれぞれ何をやるべきか議論し、小学校は「なんかできそう」、中学校は「できそうをできる」、高校は「できるをやるぞ」というマインドを育てるという整理ができました。全体として共通の大枠をもつことも大切です。小学校のマインドが今回のカリキュラムモデル案に反映されたのは良かったですよね。

竹谷:マインドの部分ってすごく重要ですよね。認知的スキルと非認知的スキルに近い話かもしれません。

従来型の学力だけでなく、それを支えるもっと大事なものがある。向き合う姿勢とか、「作ってみたい」「やってみたい」「できた」といった気持ち。それがベースになっていろんな力が湧いてくるんです。

「アルゴリズム」という語について

宮島:少し話題を変えるのですが、今回の提言の中では、小学校でも「アルゴリズム」を扱うことを考えています。ただ、いきなり「アルゴリズム」という言葉を使うと、なじみがない可能性があるので、小学校の先生たちは抵抗を感じてしまうかもしれません。そこで、小学校では「動きの手順」という言葉を添えることにしました。

竹谷:これは柔軟な対応として、よかったですね。

宮島:僕自身はアルゴリズムをコンテンツとして捉えているのではなく、創造性の観点から考えています。

作品を作っていくプロセスのなかで、処理の手順や動きの手順を思い浮かべられるようになってほしい。そして、それをプログラムに応用できるコンピテンシーを身につけてほしいのです。バブルソートのような特定のアルゴリズムをそれとして理解することは、小学校段階ではあまり意味があるとは思えません。自分の作品にそのアルゴリズムが必要だから学ぶ、という順番であってほしいですね。

提言をまとめて

竹谷:今までにない学習活動の事例を考え出すのは大変でしたが、おもしろかったです。なかったものを作るという、こんなにおもしろいことはないという。大変ではありつつも、そこに醍醐味を感じました。これを見て先生方や子どもたちがチャレンジして、「こっちの方がもっとおもしろくて力が付くぞ」と私たちが考えつかなかったようなものを作ってもらえたらうれしいですね。

宮島:カリキュラムモデル案というと、コンテンツ重視に見られがちかもしれませんが、僕たちは、コンピテンシーベースで考えています。特に小学校ではコンピテンシーを重視しており、その点がしっかり伝わるといいなと思います。


この対談を通じて、小学校で「情報を学ぶ時間」を新設する意義や背景について、何か受け取っていただけることがあれば嬉しいです。

今後、このカリキュラムモデル案も参考にしていただきながら、各学校の実情に合わせた実践が広がることを期待しています。同時に、教師の創造性や主体性を尊重し、柔軟な運用を可能にする「時間」としての設定が、小学校における情報教育の質的向上につながってほしいと願っています。

URL:「小・中・高等学校における情報教育の体系的な学習を目指したカリキュラムモデル案

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