元中学・技術教員によるジェンダーインクルーシブな授業づくり研修
みなさん、こんにちは!みんなのコード未来の学び探究部の千石と釜野です。
8月に、埼玉県立総合教育センターにて、中学校技術・家庭科(技術分野)の授業づくりに関する研修会の講師を務めました。今回は、ジェンダーインクルーシブな視点にチャレンジしたのですが、その様子をレポートしていきます。
※この記事はみんなのコードコーポレートサイトからの転載です。
無意識のうちに女子生徒の興味・関心に響かない授業作りをしてないか
みんなのコードでは、「誰もがテクノロジーを創造的に楽しむ国にする」というビジョンを掲げ、さまざまな格差を埋める取り組みを行っていますが、特にテクノロジー分野において大きなジェンダーギャップが認められるため、女性教員に特化したプログラミング教育機会の提供や、女子校と共同したカリキュラム開発などに取り組んでいます。
さて、中学の技術・家庭科技術分野(以下技術科)は元々、職業科という、ものづくりを中心とした職業訓練に近いところからはじまった教科です。1985年の女子差別撤廃条約をきっかけに、普通教育において男女別学はそぐわないということで、それまで技術は男子、家庭は女子と性別ごとに分けられていたものを、1993年から同じ内容を男女ともに学習する今のスタイルに改められました。
しかし、男女共修となって30年が過ぎた今日でも、男子は技術、女子は家庭のイメージが拭えないのはなぜでしょうか?
私は、その原因の1つに先生の無意識のバイアスがあるのではないかと考えました。この研修のアイデアは、私の教員時代の経験とみんなのコードでの経験から生まれたものです。
技術科の先生は、私の経験上、手先が器用だったりもの作りが得意な人が多いです。またコンピュータの操作に長けていたり、理系科目が得意という共通点もあります。しかし先生の性別に目を向けると、女性の先生も以前よりは増えましたが、それでも他の教科と比較すると絶対的に男性率が高い教科です。
そういう先生達が「技術の楽しさ、素晴らしさ」を生徒に伝えようとするあまり、無意識のうちに女子生徒の興味・関心に響かない授業作りをしてしまうのではないか?自戒の念を込めて考えるようになりました。技術科の先生方がほんの少しでもジェンダーの観点を持って授業作りができたら日本の技術科が変わるのではないかと思い、今回の研修会を設計しました。(千石)
「気づくこと」から始めよう
研修の内容は、千石が骨子を作成し、COOの杉之原と壁打ちしながら仕上げていきました。みんなのコードは、女性教員向けの取り組みはしてきました。が、今回は「性別関係なくジェンダー・インクルーシブについて考える」という初の試みでした。
みんなのコードには、大切にしている行動指針のひとつに「気づきに行こう」があります。今回は、この観点を大切に研修の内容を考えました。
過去に、女子大学生の方も交えて、技術科の教科書を題材に議論したことがあります。私たち自身、果たして性別に関係なく夢中になれるような授業を作ることができていたのか、ということを振り返るきっかけになりました。このとき、私たちが感じた「気づき」は、日本中の教室で無意識のうちに起きていることなのではないかと思いました。この「気づき」を多くの先生に伝え、徐々に日々の「意識」や「行動」につなげてもらうきっかけとなるよう、研修の内容を考えました。
これまで「ジェンダー・インクルーシブの観点が欠けていた」ことを責めるものではなく、「まずは気づくこと・理解すること」から始めることを大切にしました。(釜野)
ジェンダーインクルーシブな授業づくり研修
今回は埼玉県立総合教育センター 指導主事の加藤先生にお声掛けいただき、研修の機会をいただきました。私が課題感として抱いていたジェンダー・インクルーシブの観点にも共感いただいたおかげで実現することができました。当日は、7名の先生にご参加いただきました。
午前の部では、「技術科における生成AIのしくみの指導及び活用」として、授業スライドをもとに、実際にTeachable MachineとScrtachを使用しながら、体験的を通しての生成AIとプログラミングの研修を行いました。
午後は、いよいよジェンダー・インクルーシブ研修です。まずは先生方とアイスブレイクや自己紹介などを通して、お互いを理解することから始めました。
①学校におけるバイアスの存在に気づく
まず、先生方が、学校で感じるジェンダーバイアスを出し合いました。
技術科=男子寄り、家庭科=女子よりというイメージがある
中学生のとき、技術は「男子」だけが受講していた
男子には注意しやすい
女性は理数系は苦手というイメージ
力仕事を頼むときは「男子の方がいいかな」
男女に分かれている部活動とそうではない部活動がある
お菓子が好きだというと女子っぽいと言われる
研修にいくと、女性が少なく肩身が狭い
などが挙げられました。「無意識にそうしてしまっていたかも」という声も聞かれました。
②気づきの視点を持って教科書を見比べる
次に、「無意識にバイアスを持っているかもしれない」という視点をもって、技術の教科書を見比べました。
「意外とジェンダーに配慮されているんだなあ」「普段見慣れているから違和感が持てない!」といった声が聞かれました。
③気づきを行動に変える
最後に、午前の研修で扱った生成AIを活用して、ジェンダーインクルーシブを考慮した授業計画を作成するワークを行いました。
そこでは、そもそもテーマの選び方であったり、授業スライドのイメージ、生徒同士の協働を想定したグループづくりなどを、ひとりひとりの先生方の、いつもと異なった角度でのチャレンジがありました。
さいごに
今回の研修は、私にとっても挑戦でした。先生方がジェンダー・インクルーシブの観点をすんなり受け入れてくださった様子に驚きました。そして、研修会の最後に先生方から一言ずつ感想をいただいた際に、「ジェンダー・インクルーシブの視点に気づけた」「2学期から早速意識してみます」といったコメントがもらえたのがとても嬉しかったです。
ちなみに、午後のジェンダー・インクルーシブ研修が始まる前、COOの杉之原からスライドの表現に指摘が入りました。表現ひとつとっても、無意識にマジョリティ目線になっていることを痛感しました。私自身、まだまだ勉強が必要です。
より多くの生徒たちに技術や情報の学習の楽しさや素晴らしさが伝わるよう、この取り組みを広げていきたいと思います。(千石)
本プロジェクトは、2024年度はYahoo!基金「ITによる社会課題の解決支援助成プログラム」のご支援をいただき、「女性教員向けプログラミング教育の教員養成プログラム」の一貫として取り組んでいます。