ジェームズ・ガンの傑作ドラマ『ピースメイカー』は『コブラ会』を意識?
評価が高かった映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』に続き、ジェームズ・ガンが製作総指揮を担当したスピンオフドラマ『ピースメイカー』。
「スーサイド・スクワッド」の流れを継いでバイオレンスや下品なネタが満載ですが、かなり感情を揺さぶってくるドラマでもありました。
『ピースメイカー』と『コブラ会』に共通するテーマは「中年男性の再生」
『ピースメイカー』は、『ベスト・キッド』の続編である『コブラ会』からもインスパイアされている印象があります。
まずは小ネタです。
ジュードーマスターという緑の全身タイツをまとったキャラクターが登場しますが、ニックネームが「コブラ会」です。
「ジュードーマスター」という名前に反して、パンチやキックを繰り出す空手遣いでもあります。
さてここからが本題。
『ピースメイカー』のドラマ軸は2つのプロットがあります。
感情ドラマはサブプロットの方にあります。
ピースメイカーの父親は、狂信的な差別主義者です。暴力も好むサイコパスと断言しても良いでしょう。幼い頃のピースメイカーは、父に決定的な「心の傷」を負わされてしまいます。
『コブラ会』の主人公ジョニー・ロレンスも、幼い頃両親からネグレクトを受けています。人をあまり信用せず、自分勝手な性格になってしまった原因は明らかに親からの影響です。
ピースメイカーもジョニーからも、親から悪い影響を受けているバックボーンは一緒です。
文化的なバックボーンも似ています。
共に劇中でグランジ以前のハードロックを好んで聴いているのです。二人が出会うことがあったら、共通の話題で話が合うんじゃないでしょうか🤣
なお、ピースメイカーの方が、80~90年代前半のいわゆる「ヘアメタル」にフォーカスしている印象です。劇中でモトリー・クルーの「Home Sweet Home」をピアノで弾いたりもしていました。
ジェームズ・ガンも、こだわりのプレイリストを公開しています。
「価値観のアップデート」では相違点も
『コブラ会』のジョニーは、マッチョな典型的なダメな白人キャラクターではありますが、数々の出会いを通して、価値観がアップデートされていきます。
不格好でも成長する姿は、ドラマの軸にもなっています。
一方ピースメイカー自身は、価値観についてはあまり変化しません。相変わらず酷いジョークを飛ばしますし、行動も粗暴です。ただ、本人は悪気がありません。人種差別などの意識もありません。良くも悪くも「素朴」です。
ピースメイカーがドラマを通して成長するポイントは、「価値観のアップデート」ではないのです。
父との確執を経て得る「心の自立」こそが、ピースメイカーのドラマの核になっています。
とはいえ『ピースメイカー』は現代のドラマです。人種や性別などの差別は許されるはずもありません。本人に悪気がなくても、口に出したらアウトです。ですが、トラッシュトークのような「毒気」を抜いたら、ピースメイカーのキャラクターとしてのアイデンティティは成り立たたくなります。
この難しい問題に対して、本作は周りのキャラクターにLGBTQや多様な人種のキャラクターを配置して相対化を図っています。
この相関図の中では、下品な差別ジョークも出てきますが、劇中で暗い影を落とすことはなく、あくまでも多少の差別……区別とも言っても良いかもしれません。皆飲み込んだ上での世界観になっています。
同じHBO Maxのドラマである『ユーフォリア/EUPHORIA』でも、LGBTQや人種などの対立はありませんでした。それぞれ個性の一つとして、当たり前のように存在している世界観設定です。
『ピースメイカー』も同じような世界観になっています。
マイノリティについては、もはやさほど大きなイシューとはなっていないのです。
解決すべきは、ピースメイカー個人の親子問題です。
『コブラ会』のジョニーも親子問題を抱えています。ですが「価値観のアップデート」を体現するジョニーとピースメイカーは異なります。ピースメイカーの方は、既に世界観がアップデートされているので、シンプルに人としての成長があるのみとなっています。
ピースメイカーの一番の友だちは、飼っている鷲の「ワッシー」です。ワッシーとは数々の修羅場をくぐり抜け、また微笑ましいエピソードも多々です。「奇跡のシーン」もあり、そこでは笑ってよいのか、泣いてよいのか、言葉では言い表せない感情が押し寄せます。
最終的にピースメイカーは、ワッシー以外の友だちを見つけることにもなりますが……ここまで述べると少し野暮ですね。
ぜひ本編をご覧頂けると嬉しいです!
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