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『泣いてちゃごはんに遅れるよ』

『泣いてちゃごはんに遅れるよ』
寿木けい/著 幻冬舎 2021

表紙の絵、タイトルから気にはなっていたのですが、なかなか読めずにいました。こちら、今年一番沁みたエッセイでした。出版は2021年ですが…。

著者の寿木けいさん、以前は出版社に勤務されていて、Twitter「きょうの140字ごはん」で話題になり、料理家として本も出版されています。と言ってもこの本を読むまで存じ上げませんでした。元編集者さんということもあってか、文章が美しいです。無駄がないというか、変わった例えや言い回しをしていても嫌味がない。

失礼ながら、中ほどまで読んで、食にまつわるエッセイねー、最後まで読まなくてもいいかなー、なんて思いつつ他の本を読んだりしていました。しかし、私より先にこの本を読んでいた夫(こちらも読書好き)から「その本最後まで読んだほうがいいよ」と言われ、もう一度手に取ってみることに。

バリバリと働いていて、しっかり自立しながらも子育てもされている。自分も仕事をしながら子育てもしていますが、寿木さんほど強くは生きられないよと思うと読むのが少ししんどかったのです。しかし、後半に少しずつ寿木さんのプライベートな部分や、心の澱のようなものが見えてくると、グッと本に顔を埋めるような感覚で貪り読みました。

でも私は、泣いていいと言うよりも、泣くなと言葉をかけるほうが、本当のような気がする。悲しみを肩代わりしてやることはできないと知ってなお、それでも、心だけは受け止めてやろうと思う覚悟がなければ、泣くなとは言えない。これまで歩んできた年月よりも、これからその悲しみを抱えて歩く歳月のほうが長いのだから、涙に舵をとらせてはいけないのだ。

『泣いてちゃごはんに遅れるよ』p192

私自身、少し心が弱っていた時期と重なり、涙を流す、涙をこらえる日々が続いていました。家族に、泣いていいよ、泣いた方がいいよと言うこともありました。でも、泣いて前向きになれるときもあれば、泣いても現状が変わらない、またはもっと気分が落ちてしまうときもあるんですよね。泣いちゃいけないって言うことのほうが、勇気がいるんですよね。その分私が受け止めてあげるからという覚悟。なかなかできることではない。でもその心強いこと。そうありたい。

ちなみに、ずっと気になっていたタイトルは沢村貞子さんのご家族のエピソードから生まれたもの。そして、表紙の絵は丹羽阿樹子さんの「遠矢」(京都市美術館所蔵)。勇敢であることを恐れない。細部に至るまで、寿木さんのこうありたいという姿勢が見てとれる1冊でした。今度は料理本を読んでみたいと思います。


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