【映画感想文】アダマン号に乗って
今日はずっと観たかったドキュメンタリー映画「アダマン号に乗って」を観てきました。この映画はベルリン国際映画祭で金熊賞(最高賞)を受賞したそうです。※ネタバレなしです
ポジティブな意味で、誰が患者で誰が医師かがわからず、立場の垣根を越えて共に過ごす時間と空間が、観ていてとても心地よかったです。当然ながら(どこかの国のように)白衣を着て足を組んだりふんぞり返ったりする医師は皆無で、患者たち一人ひとりの抱く傷や葛藤が、丁寧に映し出されていました。自然体でスクリーンに現れる登場人物たちの姿に、強く心打たれました。
確かに、もろ手を挙げて賛同でない部分もあったりしたのですが、そこは個々人の主張というか、患者とはいえ、皆が同じ方向を見ているわけではないという部分にも、却ってドキュメンタリーとしての誠実さを感じました。
少し話は逸れますが、とある団体の機関誌で、患者の希望は「薬の調整云々じゃなくて、とにかく話を聞いてほしい」という意見が群を抜いて多かったというデータが公開されていました。
精神科医の仕事って、臨床に限って言えば、患者の話を(足を組んだり頬杖ついたり威圧したりせずにましてやあくびや居眠りなどせずに)真剣に傾聴してなんぼだと思うのです。患者の声をテンプレートに流し込んであれこれ上から目線で診断するんじゃなくて、可能な限り同じ目線に立つことに汗をかく。それに尽きると思うのです。
薬よりも対話だと私は思っているので、ここ数年では対話を一層重視するオープンダイアローグの取り組みも日本で広がりつつあるのが嬉しいです。あまり書くと本業に食い込んでしまいそうなので、詳細には書きませんが、課題もありつつ、それらを解消してぜひ実践として定着してほしいです。
「アダマン号に乗って」に話を戻します。舞台がフランスということもあってか、登場人物たちの芸術への距離が本当に近くて、劇中にはふんだんに音楽や絵画を紹介するシーンが出てきます。それも作品の魅力になっていて、とても楽しかったです。
静謐なセーヌ川を望む風景に、彼ら/彼女らの切実な声がこだまするようで、ぐいぐい引き込まれて観ました。一人ひとりに想いが、歴史が、物語があり、精神疾患を抱くに至った(抱いて以降もなお続く)傷や痛みがある。それをそっと包み込む場所、それが「アダマン号」なのでしょう。あっという間の109分間でした。
精神疾患を特別視したがる風潮の根強い社会の中で、この映画が金熊賞を受賞したことの意味を噛みしめました。まだ観ていない方は、ぜひお近くの映画館でご覧になってはいかがでしょうか。
▽たびたびの宣伝で恐縮ですが、ここにも傷や葛藤を抱いて、その痛みとともに生きることを選択した「ふたり」がいます。ぜひ応援してください(「創作大賞2023」参加作品です)。
▽公式サイトのリンクも貼っておきます。
それでは皆さま、よい週末の夜を!
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