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さよなら銀杏BOYZ

5連勤明け、久しぶりにカラオケに行った。
一人カラオケ。
「カラオケでクラスター~」みたいなニュースのせいか、いつも混んでいたカラオケはガラガラで、熱を測られることもなくLive DAMの部屋に入った。

一人のカラオケは良い。
気も遣わないし、止めるも入れるも好き放題だ。
一緒にカラオケに行くような友達はみんな気の置けない大好きな友達だけど、それでもやっぱり私はもともと声が大きいし、ジャイアンリサイタルみたいになっていないかと少し心配はする。
そういうものから一切解き放たれた一人カラオケ。
5連勤から解き放たれたという肉体的な盛り上がりも相まって、大声が出せるような曲を次々に入れる。

上手に歌うのも好きだ。
テレビでもよく使われているような採点機能を使って、聴衆がいるような気分を味わう。
歌詞の意味を考えながら入り込んで歌う。
椎名林檎の「月に負け犬」とか、布施明の「君は薔薇より美しい」とか。

でも、上手に歌ったって仕方のない曲もある。
中島みゆきの「化粧」は、歌い上げるよりみじめさをかみしめるように歌うのがいい。


「バカだね バカだね バカのくせに ああ 愛してもらえるつもりでいたなんて」

中島みゆきって一人でいる風呂場でしか出したことのない嗚咽みたいな歌い方するからすごいな~と思う。
ああいうの、メロディがどうこうってことじゃないよな。


銀杏BOYZの「援助交際」もそう。
原曲聞いたらわかるけど、音程外さなかったら感動するというような歌ではない。
歌いながら吐いてるんじゃないかと思うほど、内臓の奥の方から声を出す。
この曲を始めて聴いた時、私は14歳だった。
往復3時間の通学路でずっとこれを聴いて、自転車に乗りながら聴くと必ずたち漕ぎになった。
大声で歌っているところを小学校の同級生に見られていた。
歌っていると、この曲を聞きながら見ていたあの頃の景色が蘇る。

「とってもとってもとってもとっても大好きで
 とってもとってもとってもとっても切なくて
 自転車の変則を一番重くして 商店街を駆け抜けていくんだ」


まさか30歳になってもこの歌を熱唱してる自分がいるとは思わなかったな。
30歳ってもっと、ねえ?
タイトスカートとかパンプスとか毎日履いてると思ってたし。
子供もいるかもしれないと思ってた。
なんとなく会社に勤めているだろうと思ってた。
多分今よりつまんないだろうなと思ってた。
でもどれも全然違ったな。
違ってよかったなって心から思う。

「だけど悲しい噂を聞いた あの娘が淫乱だなんて嘘さ
 僕の愛が どうか届きますように
 ああ 世界が滅びてしまう」


改めて思うけど銀杏の曲ってベース最高だよな。
ギターソロみたいなベースラインだ。
頭ガンガン振ってうつぶせになって足バンバンするみたいなベース。
枕に顔押し付けて「ア˝ーーーーーーーー!!」って叫ぶみたいな。
しかもサビに入ると急にやさしくなるところも良い。


「眠れない夜を優しく包む恋のメロディ
 抱きしめて今夜だけ このままでいて」


あれ、この曲って、「好きな子が援助交際してるって噂を聞いたから自分が彼女を救いたい」みたいな歌だと思ってたけど違うな。

「あの娘の笑顔を取り戻すため ああ 僕は生まれてきたの
 あの娘のメールアドレスをゲットするため ああ 僕は生まれてきたの」


メアドも知らないんだもんな。
話しかけたこともないんじゃないの。
「話しかけたこともない人の笑顔を取り戻すために生まれてきた」って思う人怖いな。

「死ぬほど死ぬほど死ぬほど死ぬほど大好きで
 死んでも死んでも死んでも死んでも切なくて
 自転車の変速を一番重くして 商店街を駆け抜けていくんだ」


もっと他にすることあるだろ。
まず話しかけろよ。
自転車でトップスピードを出してなにもかもを置き去りにしてどうする。

「ヴィトン プラダ シャネル カルティエ
 ティファニー ブルガリ グッチ エルメス
 僕が全部買ってあげるから ああ 世界が滅びてしまう」


話したこともない人に買われたら怖いよ。
しかも同級生に。
まだ援助交際のおじさんから買ってもらった方が良くはないけどわかるよ。

ああ、14歳の時の私もこんな感じだったな。
というか私は結構最近までこんな感じだった気がする。
恋をすると自分の気持ちでいっぱいいっぱいになってすぐに相手の存在が消し飛んでしまう。
思いついたことを端から順番に口にする5歳児になってしまう。
打算も配慮もできず、胸が苦しくて涙ばっかり出るような。
相手からしたら怖いよな。
5歳じゃ論理も通じないし。
だから恋は全部片思いだった。
キスやセックスがあっても、脳みそがとろけるような瞬間があっても、そこに相手はいなかった。
私の恋は枕に顔を押し付けて「ア˝ーーーーーーーー!!」って言うためだけにあった。

「だけど悲しい噂を聞いた あの娘が淫乱だなんて嘘さ
 僕の愛がどうか届きますように ああ どうか幸せでいておくれ」


私も、この歌みたいに「幸せでいておくれ」って思えたらよかったな。
話したこともない、自分を認識していないかもしれない子を死ぬほど好きになって、自分の興味に囚われて相手の気持ちもかまわずに突っ込んでいくんじゃなくて、話しかけないけど「幸せでいておくれ」って願い続けられるような、そんな風であれたらよかった。
独りよがりでも、傷つけなくてすんだよな。
この歌、とっても激しくて熱情がほとばしってるのに、実際には自転車漕いで夜更かししてるだけなのがすげえ良いよな。

「眠れない夜を優しく包む 恋のメロディ
 抱きしめて今夜だけ このままでいて
 あの娘は どこかの誰かと 援助交際」


世界が滅びなかったいくつもの夜を越えて、私はすっかり大人になった。
今は好きになった相手の姿がわりとくっきり見えるよ。
気持ちがぐらぐらしても相手にぶつけないで済む。
自分の気持ちをできるだけ正確に伝えようと努力できる。
でも今だって眠れない夜に自転車漕ぐよ。
そして世界の真理がわかるとき、私はたいてい自転車に乗ってる。
スピードを出してるから振り返れないけど、あの頃の私が走り去った後ろで手を振っているのがわかる。
さよなら、さよなら。
自転車を止めて振り向いても、もうそこには何も見えない。
自転車を乗っているときだけの真実。
抱きしめて今夜だけ、このままでいて。
なんて甘やかな詩なのだろう。
こんな気持ちで歌ったことはなかったな。

歌い終わった後、なぜか涙が出た。
自分で歌って自分で泣いてたら世話はない。
でもなんか、気持ちの奥の方が外に出て、感動してしまった。
誰もここにはいないのだけど。

一時間のつもりが結局二時間歌って、フリータイムでもないので2000円近くして、でも高校生じゃないから別にダメージもなく支払って、カラオケを後にした。
次行くのはいつにしようかなあ。

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