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2022年3月26日

今日のココ日(ココルーム日記)

2週間のインターンシップを終えた別府の大学生カイトくん。

釜芸合宿では3日間出ずっぱりでオンライン参加者の対応を請け負うなど大活躍だった。

いつも正直にその場にいてくれたカイトくんは、インターン最終日も残りの時間を惜しむかのように一所懸命手伝ってくれた。

徐々にフェリーの時刻が近づいてきた午後、突然古本屋に行ってきます、と出かけていった。

帰りのフェリーで読む本でも探しにいったのかと思っていたが、暫くしてカイトくんが浮かない顔で山積みになった本を抱えて戻ってきた。

僕は仕上げなくちゃいけない仕事がありあまり気に留めずにいると、カイトくんは再びどこかへ出かけて行った。

外は雨が激しくなり、商店街を歩く人も減ってきていた。

30分後、カイトくんが今度は両手に巨大な袋を抱えて戻ってきた。

さすがに僕は気になって、「それ、なに買ってきたん?」と聞いた。

重そうな袋を脇に置いてゼーハー言っていたカイトくんは、腰を下ろしてからようやく僕に答えた。

「柳田、、國男の本、、」

僕は彼が持ってきた大きな袋ふたつとテーブルの上に積み上がった本を見て言った。

「まさかこれ全部別府に持って帰るつもり?」

カイトくんはどうにもならないといったような困惑顔で、ことの成り行きを話し始めた。

「たまたま新世界の古本屋の前通ったらね、柳田國男の本が何冊かまとめて縛ってあって、ちょうど今学校で柳田國男の研究してるから良いなって思って値段聞いたの。そしたら店のオッチャンが千円って言うから、それは安いやと思って買います!って言ったの。僕お店の前に置いてあった分だけだと思ってたんだけど、オッチャンお店の奥からどんどん出してきて、、」

「え?それでこれ全部で千円だったわけ?!」

僕は思わず声を上げた。

「うん、、オッチャン商売する気ないねんって言われて、、」

カイトくんは途方に暮れた様子でそう答えた。

「お金は取られてないけど、これはこれで詐欺みたいな話だね」

僕はそう答えるしかなかった。

「柳田國男集、勉強に必要だったけど、こんなにはいらんかった、、」

そう言ってカイトくんはため息をついた。

そのうち他のスタッフたちもなにやら様子がおかしいとカイトくんの周りに集まってきた。

「フェリー乗り場まではどうやって行くん?」

「地下鉄で」

「台車で駅まで一緒に行くよ。そこから先はなんとか運べる?」

「うん、大丈夫と思う。ありがとう」

カイトくんは鞄の中身を引っ張り出しながら本を詰め込み始める。

ネットで調べたところ、カイトくんが買ったのは筑摩書房から出ていた柳田國男集全31巻と別冊5巻のフルセットらしい。

だが実際に数えると別冊の最後の一巻が欠けていた。

スタッフの誰かが言う。

「まだ間に合うからその古本屋戻って足りない別冊があるか確かめてみたら?」

カイトくん、目を丸くして全力で断った。

「いやいや、もういらんし!」

カイトくんはその後無事にフェリーに乗って別府に向けて旅立った。

ココルームの活動は家事と事務という作業に支えられている。

日々の地道な積み重ねが、出会いと表現の場を開き続ける唯一の方法だとスタッフは理解している。

その現場のあり方にカイトくんはスッと入ってきてくれた。

カイトくん、2週間どんな仕事も嫌がらず面倒くさがらずに取り組んでくれてありがとう。

これからの日々もどうか楽しんで!

(書いた人:テンギョー)

現在、ココルームはピンチに直面しています。ゲストハウスとカフェのふりをして、であいと表現の場を開いてきましたが、活動の経営基盤の宿泊業はほぼキャンセル。カフェのお客さんもぐんと減って95%の減収です。こえとことばとこころの部屋を開きつづけたい。お気持ち、サポートをお願いしています