"僕は靴を商売にしたいわけじゃない。ただの手段の1つに過ぎないんです。靴商売は。"
自分の靴作りをただの「手段」と言い切り、
それを仕事ではなく趣味。としか人に言わない。
だが、その趣味は寝る間も惜しんで明け方まで作るくらい本気。 相手を想うゆえ一足一足に込める時間は膨大なものだ。
そんな生き方と「はきごころ」というシンプルネームで第2の心臓である足を表現する靴職人、平松りょうすけという人物に惹かれ
私は西宮北口の小さなカフェの一角で彼を待った。
「ども。」とだけ答えた彼の第一印象は陽気なのにどこか、最近の若いちょっとかわったことのしている人ではなく、ちゃんと24歳を生きる青年だった。
みなみんさん、この人おもろいなって。
そう言ってくれた。そして仕事の話でもなく、ただお互いの生い立ちを語る時間が過ぎた。
語る彼をみていると彼はとても白く、そしてその白は誰にも染まりたくないのだなと思った。
というか、誰も染めることができない。
だからなのだろう。彼は時々人の期待と染めようとする人間に疲れてしまうと言っていた。
私は彼に言った。
「まっすぐ上に登って行くとき、それにたくさんの人がくっついてこようとするんですよね。それが"執着"ってものです。」
登り続ける限り、人はたくさんこの才能にくっついてそして何かを知ろうとしたり、何かを得ようとしてきたりするのだろう。と思った。
そしてそれを1番わかっているのは本人だ。
私はなぜ、靴なんですか?と聞いた。
靴は手段なんです。と彼は言った。
そしてそう聞いて安堵したのは彼は彼自身が全てで生きて行くことも、人を惹きつける こともできるからだと私も感じていたから。
平松りょうすけという人物自体をもっと知りたい人は多くなっていくだろう。平松りょうすけが売るなら買いたい。という人が増える未来が私には見えた。
靴は彼にとって経験したものの集まりがたまたま生み出した商売の手段にすぎない。
それでも、靴は、必然と彼を選んだのだろう。そんな彼の作った靴だけが見せる景色を予感して。
続く。