臨床心理士が答える「怒られると笑っちゃう人の心理」
A. 怒る人をあやしている
怒られてるのについ笑っちゃうこと、ありますよね。相手に失礼なのはわかっているし、誤解されて更に怒られてしまうリスクが高まるだけなのに、どうして顔が勝手に笑ってしまうのでしょうか。
怒られたときに笑ってしまうのは、相手から「必死さ」を感じ取り「そんなに怒鳴らなくても大丈夫だよ~」とのメッセージを送る目的があるからかもしれません。どういうことか説明していきますね。
誰かに怒りを向けるのはとてもエネルギーがいります。何かに怒ったときのことを思い返してもらいたいのですが、身体がカーッと熱くなる感覚がないでしょうか。それは何かあったら素早く動き出せるよう、身体がその準備をしているからです。エネルギーが放出されている証拠です。生き物は捕食動物に襲われたとき、生き延びるために怒りの感情を使って身を守ることが必要なのですね。
ところが、人間は「言語」を発達させました。だから怒りを感情の赴くままぶつけなくとも、言葉で淡々と説明しさえすれば言いたいことを伝えられます。現代の人間社会において、怒りの発散はエネルギーの使いすぎであることが多いのです。この過剰なエネルギーの浪費を人は「必死さ」と感じるのでしょう。
だから「そんなに怒鳴らなくても大丈夫だよ~」と、エネルギーを使わなくていいことや、言葉を使えば十分伝わることを知らせる必要があります。それが「笑ってしまう」行動に繋がるのだと思います。ちょうど赤ちゃんがぐずったときに「そんなに泣いて心配しなくてもパパとママはここにいるよ」と笑ってあやしてあげるのに似ています。
以上が怒られたときに笑ってしまうときに起きているメカニズムだと思います。このメカニズムを専門的には「躁的防衛」と呼びます。躁的防衛とはネガティブ感情をポジティブな感情で打ち消す無意識の心の働きのことです。「必死さ」を向けられ「狼狽」した感情を「大丈夫だよ」と「慈悲」の感情を自分にも相手にも向けることで打ち消しているわけです。
では今後怒られたとき、どうすれば笑わないで済むのでしょうか。相手との関係性によって大きく二つのやり方が考えられます。
一つが「そんな言われ方をすると怖いので、もう少し優しく言ってくれませんか?」と提案してみるパターンです。こちらは相手が聞く耳を持ってくれる人であったり、家族や恋人、友人など対等な立場の人だと比較的言いやすいかもしれません。相手がこれで落ち着いてくれれば、こちらはあやす必要がなくなります。
もう一つが「相手の態度ではなく、言っている内容に注目する」パターンです。相手によっては提案が難しい場合もあります。そんなときは相手の言い方や表情に注目するのではなく、ひたすら内容だけに集中するやり方がいいと思います。
「○○のときは××しろって何回言えばわかるんじゃー!」と顔を真っ赤にして言われても、「○○のときは××して欲しいのだな」と内容に耳を傾けるのです。内容が妥当なものであれば、笑わず真摯に受け止められる機会も増えるでしょう。
中には事情があって怒らざるを得ないといった人もいます。怒る人は怒る人なりに何かしらの困り感を抱えているものです(詳しくはアンガーマネジメントの記事を参考してください)。笑ってしまうことで、「バカにされた」などあらぬ誤解を招き更に相手を困らせないためにも、笑わないでいられる工夫をして行けるといいですね。
また、怒る側になったときは、相手が笑い出すとバカにされた感じがして「ムカつく」と思うかもしれません。しかし「決してそういうわけではないんだ」と思い出せれば、ムカつきによるさらなるエネルギーの浪費が抑えられます。相手の笑いを「エネルギー浪費中のサイン」と考えれば少し冷静になり、理性的なコミュニケーションがとりやすくなるかもしれません。