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魔女の洋装店   short story 

町外れの路地裏に、ひっそりと佇む小さな洋装店。

その名は「夜明けの針」
店主のクラリスは洗練された美貌を持ち、
時代を先取るセンスで知られていたが、
彼女には大きな秘密が…..本当は魔女だということ。

クラリスは、その魔法の力を使って顧客の望みに応える。
表向きは布地や糸を操る名手だが、実際には魔法の針で
隠された心の内側を紡ぎ出し、世の女性の幸せを願って
 依頼人が最も輝ける衣装を作り上げること。

ある日、若い女性が店を訪れる。
青いドレスに身を包み、少し怯えた様子の彼女は
エリカと名乗った。エリカは控えめな声で言った。

「実は、週末にパーティがあるのですが、
わたし、人前に出ることに自信が持てなくて…」

クラリスは微笑み、柔らかな声で尋ねた。

「自信が持てない理由は何かしら?」

エリカは俯きながら小さな声で答えた。

「わたし、自信がなくて周りと比べてしまうんです。
華やかな友人たちの中に混じると、
自分をみすぼらしく感じてしまって…」

クラリスはその言葉を聞いて頷き、奥の部屋へ案内した。
そこには美しい布地や装飾品が並んでいる。

「あなたのために素敵なドレスを作りましょう」

彼女は魔法の針を手に取り、
エリカの周囲をぐるりと歩きながら、心の声を聞いた。
エリカの不安や願いが針を通じて彼女の手に伝わる。
クラリスは笑みを浮かべ、唱をうたうように作業を始めた。

数時間後、出来上がったドレスは深いエメラルドグリーンのシルクで、細やかな金糸の刺繍が施されている。
そのドレスを試着したエリカは驚いたように鏡を見つめる。

「これが…本当に私?」

ドレスはエリカの内面を余すことなく映し出していた。
隠された内なる勇気と輝くばかりの魅力が形になり、
彼女の自信を引き出しているようなドレスに仕上がった。

クラリスは微笑んで言った。

「これはあなた自身の本当の輝きよ。
ただ、あなたが気付かなかっただけなの」

パーティの日、エリカはそのドレスを着て現れ、
周囲の視線をすべて集めてしまう。
彼女はクラリスに教えられた通り、
自分の中に眠る力を信じ、堂々と振る舞うのだった。
その夜、エリカは初めて心からの笑顔を見せた。

夜明けの針をそっと覗くと、
クラリスは静かに店の奥で次の依頼の準備をしていた。
彼女の魔法が顧客の未来にどのような影響を与えるのか、
誰もが知ることはない。
ただ一つ確かなのは、彼女の手で作られた服が、
誰かの人生を変える瞬間があるということなのだ。

クラリスは、今日もまた新たな物語を紡いでいる。


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