ミントタブレット
お腹は空いていないのだけど少し口さみしいなあと思う時ってありませんか?
ボクにはそんな時間がある。
いや、それはお腹が空いているだけでしょ?
そんなことを言われそうだけど、断じて違う。
確かにお腹が空いている時もあるのだけど、この口さみしいというのはそんな時ばかりではない。
なんかちょっとスッキリしたい時があるのだ。
それでそういう時はミントを食べる。
少し強めのミントが好きなのだ。
す――す――するあの感じがとても好き。
気持ちまですっきりしていく感覚に陥る。
いや、実際には気持ちまではすっきりしないのだけど。
お腹が空いている時に、少しミントを口に入れることがあるのだけど、そういう時はそんなに美味しくない。
どちらかと言うと食事の後のミントがすごく好きである。
口の中がさっぱりするあの感覚がたまらないのである。
ミントは少し甘いし、実際にミント味のタブレットばかりではなく果汁味のものもある。
甘いものはボクは食べないのだけど、当時3歳ぐらいだった息子がボクの真似をしだして甘いタブレットを欲しがったので購入してあげたことがある。
彼は満足気にタブレットを口に含んでいた。
そんなある日のこと。
先日、購入した甘いタブレットはすでに息子の手にはない。
すべて食べてしまったのだ。
外食をして、ボクはいつものようにミントタブレットを口に含んだ。
『ねえ。それほしい』
息子はつぶらな瞳でボクに訴える。
いや、別にいいけど……
『あげてもいいけど大丈夫かな?』
『大丈夫だよ』
何も考えずに話す息子。
その思慮のなさはきっと父に似たのだな。
『お父さんが食べてるのはちょっとす――す――するけど本当に大丈夫?』
『うん! 大丈夫』
一応、ちゃんと聞いたのだけど、息子はまったく何も考えずに返事する始末。
まあ、3歳児なんてそんなもんかもしれない。
『じゃあ、気をつけて食べるんだぞ』
自分で言っておいてなんなんだが、何を気をつけろというのだろうか。
こんなもん、口に入れてしまえばもうおしまいだ。自分に合わない味なら我慢して最後まで食べるか、それか吐き出すしかない。
『やった――』
無邪気に喜びながらミントタブレットを口に含む息子。
『あ、美味しいね』
意外なことを言う息子。
確かに口に入れてすぐは少し甘いのだ。
ただちょっと時間が経つと味が変わる。
しかも……前述したが、ボクは少し強めのミント味を好むのだ。
『かぁ――――っ! かぁ――――っ!!』
『大丈夫か?』
『かぁ――! う……うん。だ……大丈夫』
明らかに辛そうな顔をして息子は『大丈夫』と言っていた。
でも一応……
『もう1つ食べる?』と聞いてみた。
いや、だって『大丈夫』って言ってたし。
まあ大丈夫なわけないんだけど。
『いや……大丈夫』
『大丈夫? いるの??』
ちょっと意地悪な父親である。
『いらない』と断られたのは言うまでもない。
現在は9歳になっている息子。
この頃を述懐してこんなことを言っていた。
『お父さんに騙されたよ』
いろいろ誤解があるようだが、はっきり言っておく。
ボクは断じて騙してなんかいない。