冷たい廊下の記憶
物心がつく頃、あれは3歳だったか4歳の誕生日に一緒に暮らす叔父がくれた大きな大きな犬のぬいぐるみ。ケーキや洋服や流行りのオモチャよりも
嬉しくて渡された時飛びついたのをしっかり覚えている。
茶色の毛並みを何度も撫でて顔を埋めてプラスティックの黒い眼を触りキルトの下を引っ張る。
わたしの1番のお気に入りになった、あのぬいぐるみはいつの間に捨てられたんだろう。
鉄筋コンクリートの三階建ての祖父の家は窓が少なくて陽の光があまり入ってこない、昼も冷たい廊下夜はもっと冷たくて母に連れられて自分達の寝室に行くまで私は冷たくて薄暗い廊下がとても怖かった。
暖かさを感じない冷えた空気のする家でわたしは幼少期を過ごした。
段々と冷えているのが家だけじゃなくそこに住んでいる人間までもが冷たくじっとりとまとわりつく闇を抱えていることに気がついた頃、ぬいぐるみも叔父もいなくなりそして父もいなくなった。