あの夏。。。
あれは暑い夏の日、玄関にキラキラと光るサンダルを見つけた。シルバーにオーロラ色に色んな角度に光るその靴は叔父の彼女が履いていたものだった。幼稚園の年長だった私は可愛い!と心奪われ母に何度も何度も買って欲しいと強請った。
叔父の彼女は美容師で髪はいつも会う度に色が変わり元気の良い物静かな叔父とは真逆な人だった。
ある日、叔父と彼女が私達姉妹を水族館に連れて行ってくれた。
母と父も一緒に行くことになり、私は内心すごく残念だった。
母は父がいる時私達に目線を向けない、きちんと化粧をし髪をセットして洋服を選び父に目線を向ける。私達はTシャツがしわくちゃだろうがそのままだ。車の中でも父とお出かけできるのが嬉しくてずっと喋り続けている。
妹は笑わない子だった、無表情で口を一文字にして頑なに目をあわせない、一度癇癪を起こすと中々泣き止まないし、拗ねて動かない。
母は毎回そんな妹に金切り声で叱りつけて
あんたみたいな子はいらない!が口癖になっていた。
私は私で、大人に作り笑いも微妙な笑顔でやり過ごす事が多くて顔色ばかりみてしまう母に罵倒されるのが嫌でずっと物分かりの良い顔をする空気の読める子供になった。
その日も、癇癪を起こし車から降りない妹に母は
周りが振り向くような声で叱りつけ父はニコニコしながら母をなだめて私はおろおろするばかり、その時叔父の彼女が私の手をぎゅっと握り皆んなで一緒にお魚見ようねと微笑んでくれた。
叱られ泣き止まない妹を叔父が抱っこして冷たいジュースを飲もうと歩き出す。
叔父と妹と私と彼女、その先に私達の事を忘れたかのようにはしゃぐ母の横顔と赤く濃く塗られた口紅、彼女に握ってもらった手にじわりと汗が滲む。
ねぇ、心配ないよ。
今日は私達がいるよ。
上から降ってきた言葉に顔をあげる
見上げた彼女の顔が逆光で半分黒く見える
握り返された汗に濡れた手の感触
その彼女も私の前からいなくなってしまった。
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