他文化を考える上で必要なNon-essentialismという概念
こんにちは。今回はNon-essentialism(非本質主義)について書いてみようと思います。その前に、そもそもEssentialism(本質主義)とは何なのか?
本質主義とは
"Essentialism is a concept used in the social sciences to talk about a tendency in human discourse to represent individuals as, at their essence, members of identifiable groups." (Cole, 2023).
これを訳すと、「本質主義とは、社会科学の分野で用いられる概念で、人間の言説において、個人をその本質において識別可能な集団のメンバーとして表現する傾向について語るものである。」
少々ややこしいですが、実はこれは私たちの日常に非常に浸透している概念であると言えます。見知らぬ人と対面する時、多くの人は社会的カテゴリーによって相手をラベル付けします(性別・人種・年齢)。例えば誰かが私をはじめて見た時、私には「アジア人(日本人)・女性・20代」といったラベリングがされるわけです。
本質主義の良いところ
これには利点があります。まずは簡単に相手の情報を得ることができ、さらにそのラベリングした情報をもとに相手と建設的な関係を築くための適切な振る舞い方を知ることができます。もしオランダ人に「あなたの意見には反対です」と言われたとしても、オランダ人はダイレクトな言い方を好むということを知っていればびっくりせずに済むし、むしろ自分もそのスタイルに合わせようと努力できますよね。
本質主義の問題点
しかしこれには注意が必要です。もしも過去の経験や知識に頼った情報で相手を判断し、過剰なラベリングをしてしまうと、それはステレオタイプに繋がってしまいます。人種や国籍はその人の一部でしかないのに、そのカテゴリーを通してでしか相手を見れなくなってしまうのです。個人の特性が属するグループの存在によって無効化されてしまうといってもいいでしょう。
私の経験
これは私が実際に体験した例です。前回、グループ内で会話分析をした話をしましたが、会話の途中で友達に「Your English is so good.(あなたの英語とても上手だね)」と言われたことがありました。これは一見褒め言葉のように聞こえますが、裏を返すと「(日本人*は英語が得意でないのに)あなたの英語(は)とても上手だね」という本質主義的なマイクロアグレッションなのです。もちろんその子に悪気がないのは態度や話し方から見て100%明らかでしたし、別の友達がその子に「You're an essentialist.(あなた本質主義者だよ)」とその場で嗜めてくれました。
Non-essentialismの重要性
ではこのようなことを避けるためにはどうすればいいのか?そこでNon-essentialism(非本質主義)という概念が重要になります。非本質主義とは、個人が属するカテゴリーの特性はその個人の存在の根拠にはならない、つまり両者に因果関係を見出さないというものです。例えば私が家で土足で生活をしていたとしても、私が日本人であることに変わりはありません。
文化的特徴とは相対的なものであり絶対的ではありません。自分とは異なる文化圏出身の相手と対面した時、「〇〇人だからこうだ」という前提に縛られるのではなく、その個人との対話を通して相手との心地よい関係を築けるよう、私自身このことを常に意識していきたいです。
参考文献
Cole, D. (2023). Different Frames of Reference [The Thing about Dutch Windows]. In The Riches of Intercultural Communication, vol. 2. Leiden: Brill.
*ここでは「日本人は」という主語にしましたが、アジア人(系)・留学生・女性など、様々な解釈ができると思います。