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持続可能なシェア型書店とは

シェア型書店をやってみて


去年の今頃。進まない工事にいらだっていた。

 6月1日で「本の長屋」を開いて1年になる。組みあがらない本棚、決まらない開店日、クラファンでいただいたお金とご好意へのプレッシャー、逃げられない現実。様々な要素が鍋の中で煮込まれ、それを毎日食べる試練の日々。試練は人を大人にすので、いい経験ともいえるが、今思い出しても、深く、重い、ため息がもれる。
 店として、ようやく形になったのは、つい最近のこと。開店後にも複数回レイアウトを変更した。試行錯誤の店づくりを重ね、時を経て今の形に収まった。要領とスピードがどんどん加速していく今、前近代的とも言える店づくりも珍しいが、多くの方が関わっているシェア型書店で成しえたというのは、書いていて思ったが、軽い奇跡のような気がする。
 普通なら函店主は離れ、場合によっては、私への誹謗中傷がネットで書かれ、本の長屋どころか、コクテイル書房も営業できない、という状況に陥っていてもおかしくはなかった。本気でそう思う。
 ひとえに本の長屋に関わってくれている方の、寛容さとやさしさのお陰だ。まずは、みなさまに感謝申し上げるとともに、これを読んでいる方々に、世の中まだ捨てたものではないよ、と心からお伝えしたい。

現在の本棚

オーナーだけが儲かっているという現状

 本の長屋の本棚の大きさは、横が50㎝、奥行が23cm、高さが20cm、文庫本なら30冊、単行本なら20冊くらい入る。これで一ケ月6000円頂戴している。コクテイル二階の小部屋を無料で使えたり、割引価格でイベントが出来たりと、特典はあるが、函店主として気になるのは、月にどれだけ本が売れるか、ということだろう。
 正直に言うが、月に6000円をコンスタンスに売れている、という方は本当に少ない。他のシェア型書店の実情を調べてみたが、どこも似たり寄ったりというところ。とあるシェア型書店はHPに、売り上げを目標にするのではなく、本屋という体験を楽しむ場、と書いてある。
 とはいえ、このようなビジネスモデルが長いこと続くとは、わたしには思えない。ご批判を受けるのは承知で書くと、今のシェア型書店は、オーナーのみが儲かっている状況だと感じている。店番は棚を持っている方々が交代でしてくれ、固定費は抑えられるし、在庫を持って販売するなどのリスクもない。人気の店だと、箱を持つのに数十人も順番を待っている、とも聞く。
 批判しながら、自分のことを書かないのはフェアではないので示すが、現在の本の長屋の状況は、函店主がおよそ70名いる。家賃、函店主がいない時、店番入ってもらう人件費、夏場は馬鹿にならない光熱費、これらを差し引くと、ぼろ儲けではないが、悪い商売ではない、ともいえる。
 ただ、シェア型書店というのは、大勢の方が関わっているので、やはり人間関係が引き起こす様々なことがあり、それらに関わるというのは、時に大変なこともでてくる。数字だけで見えないのは、全ての商売に言えることだとは思うが。個人商店主としては経験できない、大勢の人の渦に飛び込め、それを勉強ととらえれば、悪いことではないのかもしれない。

本店予定店舗店舗

本を売る、という大きな可能性

 
 今年の夏に新しい店を出す。コクテイル書房のとなり、元床屋さんだった場所。空き店舗のオーナーとは、同じ商店会に属しており、彼が商店会長、私が副会長で、苦楽を共にした仲だ。去年の年末に立ち話をしていると、店を閉じ、今の建物を解体し新しくビルを建てると。「結構なお金がかかるから大変だよ」という彼に「何にもしなくていいから貸してくれない」と提案し、二つ返事で受けてくれた。
 敷金も礼金もかたちだけ、家賃は格安に設定してくれた。培った人間関係が、新しい書店の芽となった。本を売る、という楽しさを、本の長屋を運営していくなかで、改めて知ることができた。
 売る、という行為をするには、必然的に買ってくれる相手のことを考える必要がある。自分の好きな本だけ並べる、自己表現のような棚では売り続けるには、限界が出てくる。買ってくれる人を想像し、その人の買いたいを探りながら箱の本を並べる。自分の命を削って稼いだお金を出し、買ってもらった本は、読んでもらえる可能性の本になる。本の交換や、無償での配布をやってみた結果を踏まえ、そう実感している。
 テレビを点ければ、今日も悲惨なニュースが流れている。ウクライナやガザでの紛争はもとより、ひと昔まえでは考えられないような軽さで、人の命や尊厳が奪われている。少しの想像力と優しさで、世界は良い方に回る気がする。売ることで、培われる、他者への想像力。シェア型書店の大きな可能性はここにこそあると思う。本を売りたい人が大勢いるという光。

持続可能なシェア型書店とは


本店白図面

 現状のシェア型書店の最大の問題点は、函が小さく、賃料が高い、ということにあると思っている。棚を大きくし、賃料を安くする。オーナーが儲からない形にすることで、シェア型書店の可能性はとても大きくなると思う。今年の夏に開店を目指している「本店(ほんてん)」は7段ある本棚1本から貸しだしをする。一ケ月の賃料は15000円。この棚数を借りるのに、本の長屋なら42000円になるので、まさに、私の儲けは少なくなる。
 

ラボとしてのシェア型書店


床屋の名残が残る店内

 書店は減り続け、書籍の売り上げは減り続ける。必然のように、この流れを見ていた気がする。取材の時に言われた「Netflixの1ケ月の加入料と、文庫本が同じ値段の時に、どう本を売っていくんですか」という問いにまだ答えは出ない。まだ出せないが、答えを探るために、藻掻き足掻きじたばたし続けようと思っている。本店もそのひとつだ。
 この店に本棚を持ってもいいと思った方、この答え探しに参加してほしい。持続可能なシェア型書店を続ける中で、持続可能な本のある世界を模索していきたい。そんな仲間になってもいいと思っている方、是非この本店に参加してほしい。連絡待ってます。狩野までメールをください。 honnonagaya@gmail.com  
 
 


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