記帳や申告作業を税理士に頼んでも、ほとんど意味がない、というお話
みなさん、こんにちは。
今日は、帳簿の記帳や、税務申告を税理士に頼んでも、ほとんど意味がないというお話をしていきます。
ちなみに、僕は税理士です。
年に一度の申告を頼む=年一関与 という形態
普段の経理は自分たちでやるから、決算の税務申告だけを税理士に依頼するケースがあると思います。
税理士の業界では、俗に言う、年一関与という形態です。
この年一関与には、2つの形態があると思います。
1つは、会社側で責任をもって決算書類を作成し、決算整理仕訳も、科目内訳書も全部一通りやり終えた状態で、税務申告書類の作成を依頼するケースです。
この場合、税理士は決算書をいじることはありません。
つまり、会計仕訳を切ることはありません。
会計数値を基に、税務申告書類で別表調整ということを行い、税務申告書類だけで処理をして、税額を確定させていきます。
税理士目線で、様々な書類や状況を整理し、税務的な視点で、これは益金に算入すべきだとか、損金に算入すべきではないとかという調整をしていくわけです。
税理士の制度上は、このやり方を念頭にしているのだと思います。
もう1つは、経理のボリュームがそんなに多くないからと、請求書や領収書などをごそっと持ってきて、会計伝票の入力から1年間に1度まとめてやって欲しいというケースです。
こちらも、年一関与と呼ばれていますが、年一関与と言った場合の多くはこちらのケースだと思います。
会社内でどこまでの精度で経理がなされているかというのは、まちまちですが、0%~70%くらいの間の精度で持ち込むケースが多いと思います。
この場合、税理士は、どこまで会社内で経理をしているのかをチェックし、誤っているものや計上漏れがあれば訂正し、決算期末時点で上げるべき仕訳を計上して、決算書類を作成していきます。
会計がほとんどできていない会社の場合は、申告期限までに、細々とした領収書を会計ソフトに打ち込んでいくことになります。
年一関与では、税務調査時には、会社を守ることはできない
年一関与の何が問題なのかというと、税務調査があった時に、会社を守ることがほとんどできないということです。
そもそも、何のために税理士に依頼するのでしょう?
税務署に文句を言われないように、追徴課税などがされないようにするために税理士にお願いしたいというケースがほとんどなのではないでしょうか。
「とりあえず、申告だけしておいてくれれば、税務署に後から何を言われてもこちらで責任を取りますから大丈夫です! 先生、何とか間に合わせてください!」 なんて言う人はおそらく、1人もいないのではないでしょうか。
でも、多くの人は、年一業務を依頼するときには、実質的に、「何とか間に合わせてください! 期限内に申告を出せれば、精度はどうでもいいです!」 と言っているのに等しい状態で書類を持ってくるケースがほとんどです。
そして、ほぼ100%に近いくらい、この年一関与の場合は、書類を税理士事務所に持ち込みます。
税理士が、会社に行って、会社の中で管理をしている作業日報等のような、会計書類とは直接は関係がないが、経理の元となっている資料の確認をすることは、ほぼ、ないはずです。
それでは、税務調査があった時には、税務署に一網打尽にされてしまいます。
税務調査時には、何よりも、日々の作業の記録が見られていくのですから。
年一関与で、税務調査に対応できない理由
年一関与では、基本的には、税務調査に備えることはできません。
いかに理由を書いてみます。
・申告期限までに入力するだけで手一杯
年一関与の場合は、約1か月間で、1年間の経理資料を会計ソフトに打ち込んでいくことになるため、余裕がありません。領収書を見ていても、これは何のために買ったんだろう、というような様々な疑問点も浮かんできます。
それを逐次、確認をしていくわけですが、会社側も記憶があいまいになっていたりします。
請求書や領収書から、おそらくこういうことに使ったんだろうという税理士側の憶測で仕訳が切られ、本当によくわからないところだけを質問し、それでもわからないところは、なんとかつじつまを合わせて、見栄えを整えて申告します。
それだけで手一杯なのです。本来、見るべき、社内にある様々な関係書類に目を通すことは、まず、できません。
・事後的にできることは、ほとんどない。
年一関与の場合は、1年間の取引がすべて終わった後に書類が持ち込まれることが大多数です。
よく、節税対策、などと言いますが、事後的にできることなんて、ほとんどありません。事前に対策を打つから、節税対策なのです。
年一関与では、頑張って入力をしました。結果的に税金はこのくらいになりました。では、また来年! ということしかできません。
・何の相談にも乗れない
年一関与では、何の相談に乗ることもできません。
もちろん、申告書を提出する段階では、こういう内容で申告しますというような説明は、たいていはしていると思います。
その段階で、いろいろな相談があれば、その場で答えるかと思いますが、たかだか、小一時間しか話す時間はないはずです。
そのたかだか小一時間程度で、本当の深い相談ができるはずもなく、通常は雑談程度で終わるのだと思います。
結果的に、うちは年に1回税理士を頼んでいるけれど、何の相談にも乗ってくれない。
最近は、ここ何年も会ったこともない。
ということになってしまっています。
年一関与をお願いしても良いケース
年一関与をお願いしてもいいケースとは、どのようなケースなのでしょうか。
個人的には、次のすべての要件に当てはまる会社だけだと思います。
・自社内で、ほぼ経理業務は完璧にできている。
・税理士には、税務申告面でのアドバイスのみを求めている。
・税務調査さながらのチェックを税理士にしてもらって、盤石な体制で申告をしたい。
そして、上記のような年一関与の場合は、税理士が会社に出向いて、一通りの書類確認と、実態確認、ヒアリングができる状態でなければ意味がありません。
小さな規模で、年に一度しか頼めないところはどうしたらいいか
年一で税理士を頼む会社のほとんどは、そこまで利益が出ていないので、できるかぎり経費を抑えたい、という意向を持つ会社なのだと思います。
年に一度の関与なら、税理士に頼むコストが抑えられるのだと思っているのです。
料金体系は、その先生によって違うので、その先生の考え方が強く反映されています。
たぶん、年一関与じゃなくても、値段を下げてくれる先生も探せばいるのだと思います。
料金は、必ずしも、税理士と会う頻度で決まるものではありません。
料金を抑えるためには、できる限り、税理士側の作業の手間を減らすことです。
でも、自分たちで経理ができないから、頼んでるんだ! というご意見ももっともだと思います。
税理士事務所側の提案により、経理業務が手間なく効率化され、情報共有もリアルタイムで行われ、会計の精度も高く、通常業務と会計が連動しているような体制を一緒に整えられたら、税理士コストは抑えられる可能性が高いと思います。
会社の規模が小さければ小さいほど、経理は本来は単純なはずなのですが、現実的には小さな会社ほど、経理能力が低いので、すべての書類がなかったり、毎月の残高を合わせたり、本来の正しい処理に直していくまでで、多大な労力を使います。
でも、そんな労力を掛けずとも、最初からばっちりな体制だったら、ほとんど作業時間はかからないわけです。
それでいて、日々の業務と会計が連動していて、会計ソフトでは表せないような具体的な様々なデータも見ることができたらどうでしょう。
自然に、経営の話にもつながっていきます。
何をどう改善したら、何がよくなって、その結果数字にどう跳ね返ってくるのかが、わかるようになってきます。
本来、皆さんは、そういう状態を望んでいるんじゃないかなぁと思うのです。
うちの事務所では、年一関与は基本的には受け付けていません。
日々の業務をどう効率的にシステムに落とし込んでいくか、ということから考えていくので、会計や税務をそんなに意識しなくても、自然と全部が出来上がる状態を目指しています。
日々の業務と会計が連動しているので、税務調査で突っ込まれることはほぼありません。
まだ、道半ばで、そういう状態の会社は少数ではありますが、そんなのは当たり前にできる時代に入っています。
税理士が税だけやってればいいっていう時代は、とっくに終わりました。
だからといって、税理士が食えなくなるかというとそれは違います。
社会が税理士に期待する役割はとても大きいのです。
それに応えられる体制を作っているのかいないのか、ということがより一層求められると思っていますので、頑張っていきたいと思います。
余談
今日こんな記事を書いたのは、久しぶりに年一の申告をやって、なんて意味のない無駄な時間だろう、と思ったからでした。
結局は、時間切れで、適当な申告になってしまいます。
毎月見ていれば、30分で終わる決算なのに、穴だらけの会計データを補正していくのだけで、随分と時間を取られました。
お互い、無駄な時間だなぁ、と思ったのでした。
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