ゲー選かけ流しvol.18 『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』
ゲームの選評を気の向くままにチビチビとかけ流す、ぬるま湯スペース。
今回は『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』(以下、笑み男)。シリーズ新作としては35年ぶりとなる『笑み男』の特徴について、クリア後の冷めやらない熱量で選評をまとめていく。
<筆者の『ファミコン探偵倶楽部』シリーズプレイ状況>
・『消えた後継者』はバーチャルコンソールでクリア
・『うしろに立つ少女』はSFCリメイク版でクリア
・『BS探偵倶楽部』は未プレイ
・過去2作のSwitchリメイク版も未プレイ
・『笑み男』は体験版から引継ぎプレイでクリア
演出が格段に豊かになったシリーズ最新作
『笑み男』は、Switchでリメイクされた『消えた後継者』『うしろに立つ少女』の開発に携わったMAGES.とタッグを組み、長らく時が止まっていた『ファミコン探偵倶楽部』のシリーズ新作としてリリースされた。
6月のニンテンドーダイレクトでは告知されず、7月のタイミングで突如発表されたPVでは、タイトルが伏せられた状態で「笑み男」の不気味な姿が披露され、話題性は十分だったと記憶している。
『笑み男』は過去作と同様、ゲームとしては極めてオーソドックスなテキストアドベンチャーである。一方、ゲームとしての没入感を増すための各種演出が、ディスクシステム時代から大幅に強化されている。
①キャラクターボイス(CV)の追加:有名な声優をふんだんに起用し、キャラクターの心情描写をしっかりと底上げしている。
②キャラクターのアニメーション:キャラクターがしっかりとアニメーションする。CVに合わせた口の動きやまばたきなど、キャラが息づいているかのように滑らかに動く。
システム部分については、進行と同時に自動更新される手帳や、やり直したい時に便利な複数ファイルのオートセーブ、調査再開時のあらすじ表示など、ユーザーフレンドリーな機能も充実。
この辺りは『シュタインズゲート』などの名作アドベンチャーゲームを数多くリリースしてきたMAGES.(旧5pb.)のノウハウが活かされているのではないかと推察する。
過去作踏襲、クセが強い聞き込みパート
本作は良くも悪くも『ファミコン探偵倶楽部』シリーズの基本システムに忠実である。捜査の過程で特定の人物に対し聞き込みを行う事になるのだが、
・「聞く」で既に選択した質問内容を繰り返し選択する
・他の質問を行った後、選択済みの質問に戻る
・聞き込みの人物の様子を「見る」。その後で改めて「聞く」
・質問の合間に「考える」。その後で改めて「聞く」
といったプロセスを経て、聞き込みパートに一区切りがつく形となる。
聞き込みのフローを例に出すと、
「聞く:質問A」⇒「聞く:質問B」⇒「聞く:質問A」⇒「聞く:質問A」⇒「聞く:質問C」⇒「考える」⇒「聞く」⇒「聞く:質問A」⇒「見る」⇒「聞く」⇒「聞く:質問B」⇒ …
のような流れである。
この聞き込みの順序が、自由度の高いファジーなフローになっていれば良いのだが、聞き込みを行う順序は厳密に決められている事が多い。
人物の心情変化を読み取りながら聞き込みを行う関係上、コマンドの順番には当然意味がある。しかし、それ故に「今どの質問をすれば聞き込みが前進するのか?」が分かりにくい点も過去作を踏襲してしまっている。
本作はプレイヤーが詰まりそうなポイントでは強調表示が行われるため、一定の改善はなされている。それでも、他のアドベンチャーゲームよりも聞き込みにコツが要る点には注意が必要かもしれない。
「取捨選択」にこだわりを感じる捜査パート
推理アドベンチャーはPCゲームの時代から長い歴史を紡いできたジャンルである。特に近代のテキストアドベンチャーは選択肢による聞き込みやポイントクリックによる捜索など、様々な工夫や驚くような仕掛けを施している作品も少なくない。
そんな中で『笑み男』はディスクシステムの過去作の調査に忠実だ。とりわけ、他のアドベンチャーゲームが取捨選択で「捨」としたポイントを敢えて捨てずに残しているフシがある。
筆者がそれを強く感じたのは、数々のロケーションでの調査パート。
本作は事件解決の糸口を探るために様々なモブキャラに聞き込みを行う事になるのだが、関わるモブキャラがかなり多い。主要キャラへの聞き込みに負けないくらいモブキャラと対話するシーンある。
近代の推理アドベンチャーは聞き込みの量に対して非常に効率的に手がかりを見つけられ、ガンガンとストーリーが進展していく作品も少なくない。テンポが良い反面「ちょっと都合良すぎでは…?」という感想を持つ事もしばしば。
『笑み男』の場合はモブキャラへの聞き込みが非常に泥臭いが、実際にプレイヤー自身が探偵(助手)として地道に調査を進めているという実感が湧きやすい。ドラマだとダイジェストで端折られそうなプロセスを愚直にプレイヤーに行わせるという仕様は、推理アドベンチャーとして一理あると思う。
筆者個人の懐古趣味ではなく、近代アドベンチャーゲームが捨て去ったプロセスを保持し続ける事による恩恵はある、と強調しておきたい。
本編「外」で回収される伏線と謎
『笑み男』は、18年前に起きた未解決事件を想起させる形で中学生の遺体が発見されるところからストーリーが始まる。
18年前の未解決事件には「笑み男」と呼ばれる都市伝説との類似性が見られ、空木探偵は都市伝説の起源を探るための調査を、主人公とあゆみの探偵助手コンビは事件の解決に向けた調査を行う事となる。
『パラノマサイト』の選評でも記載したが、筆者が推理アドベンチャーのシナリオに求める要素は以下の2つである。
①ゲーム側から情報の後出しジャンケンが適切に行われ、考え得る容疑者達が捜査線上で浮き沈みすること
②後出しジャンケンで提示された情報によって、プレイヤーの推理や予想が適切な速度で煮詰まっていくこと
本作は上記2点を満たす良質な推理アドベンチャーだ。
…と思いながらプレイしていたところ、予想外のタイミングで終章を迎え「!?…」となった。
終章の、プレイヤーに対して一気に畳みかけてくるような急展開は『消えた後継者』『うしろに立つ少女』の最終盤を彷彿させる流れで、「確かに今、自分は『ファミコン探偵倶楽部』シリーズを遊んでいる」という実感があった。
一方、本編のスタッフロールを眺めながら脳裏に引っかかっていた数々の「?」。これらは本編クリア後に開放される要素で補完される事となる。
本編のみで謎と伏線が回収されない構成については賛否の分かれるところだろう。また、終章の急展開やおまけ要素の描写・内容についても同様。
クリア直後の今の筆者の頭で本作の賛否を明言する事は難しい。が、少なくとも「本作を遊んで良かった」というのが率直な感想だ。少なくとも筆者が引っかかっていた謎については一通り解消されたから、である。
筆者としては、長らく沈黙していたシリーズの新作を遊べたこと、ネタバレ無く本作の結末を見届けられたことに満足している。
おわりに
『笑み男』は『ファミコン探偵倶楽部』シリーズ35年ぶりの新作と言う事で、製作陣、とりわけ坂本賀勇氏のプレッシャーは並々ならぬものがあったのではないかと思われる。
本作はシリーズファンが求めているものを継承しているような作りで、当時のゲーム性までパッケージング。ノスタルジックなテキストアドベンチャーとなっていた。
ボリュームが最大のネックだろうか。欲を言えば、本編クリア後のおまけ部分についてもアドベンチャーパートとして掘り下げる作りになっていればもう少しゲームのボリューム感は向上したのではないかと思う。
気になる点はあれど、シリーズ最新作として果たすべき役割はしっかり備えていると思える作品。終盤の急展開もシリーズ作品らしく、新鮮な驚きと恐怖を味わえる。アドベンチャー好きな人にはオススメしたい作品だ。
本作を一言で表すならば
シリーズの遺伝子を受け継いだテキストアドベンチャー界の異端児
である。
本作の選評は以上。次回は2024年8月のプレイレポートを予定。
次回もよろしくお願いします。
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