ゲー選かけ流しvol.21 『聖剣伝説 VISIONS of MANA』(後編)
ゲームの選評を気の向くままにチビチビとかけ流す、ぬるま湯スペース。
前回に引き続き、『聖剣伝説 VISIONS of MANA』(以降、VoM)。
前編はアクションRPG部分とシステムを中心に選評をまとめた。後編ではキャラクターとストーリーに軸足を置き、本作の魅力をまとめていきたい。
個性豊かな5人のメインキャラクター
まず、『VoM』の物語における5人のメインキャラクターについて紹介していく。
<ヴァル>
メインキャラクターの中でも本作の主人公となる、火の村ティアナで育った少年。幼なじみの少女ヒナが「火の御子」として選ばれ、ヴァルは御子の護衛「魂の守り人」としてマナの樹を目指し旅立つ事となる。
先代の守り人を務めた女性ライザを慕っており、守り人の役割について誇りを持っているヴァル。しかし、彼にのみ備わっている、生物を「輝石」に変える力が、ヴァル自身の運命を大きく揺さぶる事となる。
<カリナ>
風の谷ロングレンに住む有翼人の少女。過去に片翼を失い、その事が彼女と親族・知人の関係性に良くない影響を与えている。聖獣の子供ラムコが数少ない、心を許せる間柄である。
ヴァルと出会い、御子に選ばれた事をきっかけに外の世界への興味が強くなったカリナ。御子の務めを果たすため、ラムコと共にヴァルの旅路に同行する事を決意する。
<モートレア>
月の街エテラナの生き残りである剣士。エテラナは16年前に御子が現れなかったために滅んだが、モートレアはその原因の一端が幼少時の自分にあると考えており、長らく罪の意識に苛まれていた。
ヴァルと出会い、月の精霊器を入手する過程で「月の御子」に選ばれたモートレア。過去を清算し自身の役割を果たすため、ヴァル達と共にマナの樹を目指す旅に同行する。
<パルミナ>
水の都エリスタニアの女王。階級制度の復活を目論む大臣プアンの陰謀が王宮を渦巻く中、パルミナは妖精から水の御子に選ばれる。
御子の役目を果たすため、エリスタニアを離れ弟のイアンに王位を継承しなければならなくなったパルミナ。プアンが王宮の実権を握らんと暗躍する動きに対し、頭を悩ませる事となる。
<ジュリ>
樹の里ヴィラルスの草人。メインキャラ5人の中で一番幼く見えるが、長寿の種族であり一番の年長者である。他の草人はみな眠りについており、仲間達に水やりを行う日々を送っていた。
長寿であるためか、未だ御子が選ばれず里の存続に危機が迫っている状況においても達観していたジュリ。そんなジュリも、ヴァルとの出会いをきっかけに、少しずつ価値観が変化していく。
ファンタジー映像美の一つの到達点
前作『ToM』が良リメイクとして、ハイクオリティな3Dモデリングを実現していたが、最新作『VoM』はビジュアル面がさらに進化している。
キャラクターは素体の美麗さはもちろん、服装の細かな装飾もしっかりと描き込まれ、ファンタジーRPGの幻想的な雰囲気をひしひしと感じられる見栄え。クラスチェンジによって属性ごとの特色を踏まえた衣装に変わると、キャラクターの印象もガラリと変わる。魅力も割り増しだ。
何よりも本作で大幅に進化したと感じたのは背景。特にヴァル達の旅の目的地である「マナの樹」の造形は、現行機のゲームの中でも最高峰であると、筆者は強調したい。
スクウェアエニックスは『FINAL FANTASY』など、フォトリアルな映像を売りにした作品が主力として君臨。それらの作品や海外のAAAタイトルと比較すると、映像の精細さに関しては見劣りする点は否めない。ただし、本作の背景は『聖剣伝説』の世界観・コンセプトアートをそのまま映像に落とし込んだかのような美しさを誇る。
特にマナの樹は『聖剣伝説2』のパッケージ画像をそのままフル3Dモデル化したような美しさ。「記憶に残る映像美」という点で、本作は突き抜けている。本作のマナの樹を見た時の衝撃を、筆者は生涯忘れる事はないだろう。
新作としての鮮度がある今こそ、一人でも多くのプレイヤーに本作のグラフィックを堪能して欲しいと願っている。
犠牲を前提に維持される世界
本作は、ファンタジーRPGの王道なビジュアルと幻想的で厚みのあるサウンド群が共存する、非常に希少で魅力的なゲームであるが、ストーリーはかなりクセが強く好みの分かれるテイストである。
4年に1度フェアリーが各地で任命する「御子」の役割は、世界に満ちるマナの循環を支えるために魂を捧げること。
端的に言ってしまえば「御子=生贄」であり、「御子の犠牲を前提として平穏が保たれている世界」という事になる。
たとえ御子に選ばれたのが、誰かがこよなく愛する人物であったとしても使命は放棄できない。使命を放棄すれば、御子が役割を果たさなければ、その地のマナが乱れて天変地異が発生。近隣の町や里は滅亡を免れなくなる。
そんな世界において、御子は自身の魂を捧げる事に迷いを持たず、むしろその役割に誇りを持っている。送り出す者たちも、送り出される御子もその繰り返しを当たり前のものとして受け入れている。この世界設定、死生観に対し拒否反応を示すプレイヤーも居る事だろう。
そんな歴史を繰り返してきた世界に対して明確にNoを突きつけた青年、オーリン。そんなオーリンが愛し、御子に選ばれたライザと逃避行を始めるところから、『VoM』のストーリーは始まる。
あたかもプレイヤーの気持ちを代弁するかのようなオーリンとライザ。彼らを待ち受ける運命は…?
これもまた、プレイヤーにとって受け入れがたい内容であるかもしれない。
ネタバレを避けるため詳細は伏せるが、御子の犠牲で成り立つ『VoM』の世界には、そのような世界を構成するきっかけを作り上げた黒幕が存在する。ただし、黒幕自身もある種の悲劇によって人生を大きく狂わされた存在である。
黒幕のやった事は決して許されるものではないが、その行動に至るまでの過程は実に人間臭く、我々プレイヤー側に似た行動原理である。この事もまた、本作のストーリーを評する上で悩ましい要素となっている。
本作のストーリーの最終的な着地点について、筆者は満足しているし、一定の評価をしている。しかし、本作のストーリーを通して新たな価値観を見出せたか、視野を広げられたかと言われると、やはり疑問が残る。
以上が、本作のストーリーを読み進めていく上で一番気になったポイントである。
「喪失」を受け入れる『聖剣伝説』シリーズ
上で挙げた通り、ストーリーについて受け入れられない部分もちらほら見受けられる『VoM』であるが、筆者がプレイしてきた『聖剣伝説1・2・3』はいずれも「喪失」を避けられない運命を突きつけられる物語であった。
”ご都合主義全開、子供にも安心して見せられる大団円!”
といったRPGはさすがに皆無に等しいが、聖剣伝説1や2はストーリー終盤で逃れようもない別離があるし、聖剣伝説3はどの主人公も喪失から始まる冒険譚である。
スクウェアエニックスにとって『聖剣伝説』は、
ヒロイックな役割を演じる事ができるアクションRPG
であると同時に、
プレイヤーに対し、大切な何かを失う運命への理解を求めている作品
なのかもしれない。
現実世界であってもゲームであっても、何かを失う事は悲しいものだ。しかし、人は誰しも大小様々な喪失を経験し、時の流れと共にそれを乗り越える強さを身につけていく。
『VoM』はシリーズの例に漏れず、喪失を伴うストーリーであるが、本作の評価は時が経ってから改めて受け入れられるものなのかもしれない。
まとめ
本作は『聖剣伝説 TRIALS of MANA』で得られた手応えを元に、改めて『聖剣伝説』というIPの「時」を前に進めるべく、シリーズを長らく支えてきたクリエイター達が集結して作られたアクションRPGであった。
ビジュアルやサウンドは正常進化を遂げ、最新ハードのシリーズ最新作として果たすべき役割をしっかりと果たしている。
唯一ストーリーについては好き嫌いが大きく分かれそうな要素ではあるものの、『聖剣伝説』シリーズのカラーから大きく逸脱したものではないという事は、この選評を通じて申し添えておきたい。
本作を一言で言い表すならば、
『聖剣伝説』の未来を変え、新たな時を進めるための一歩を踏み出したシリーズ最新作
である。
前後編に分けてまとめた選評は以上。
次回もよろしくお願いします。