ゲー選かけ流しvol.23 『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(HD-2D版)
ゲームの選評を気の向くままにチビチビとかけ流す、ぬるま湯スペース。
今回はHD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』。
HD-2Dリメイクの初報から長らく沈黙を保っていたドラゴンクエストIII(ドラクエIII)も、発売日が決まってからはトレーラーも活性化。今月遂にリリースの運びとなった。
ファミコン(FC)版の原作発売当時に社会現象を巻き起こしたドラクエIIIが、スーパーファミコン(SFC)版のリメイクを経て現代に蘇った。
新たな描写、新たな環境で遊べるようになった本作の魅力について、大いに語っていきたい。
<筆者の『ドラクエ』シリーズプレイ歴>
・ドラゴンクエストシリーズは『X』以外クリア済み
・『ドラゴンクエストIII』はFC/SFC/HD-2D版をクリア済み
・HD-2D版はSwitchでプレイ
・HD-2D版はクリア後のやり込み要素含めて攻略完了
・HD-2D版のプレイ時間: 55時間強
HD-2Dで蘇るグラフィック
JRPGの代表格、国民的RPGの「ドラクエ」ブランドを確固たるものにしたロトシリーズ三部作の完結編、ドラクエIII。そんなドラクエIIIがHD-2Dで蘇るという事で、当時は大きな反響があった。
『オクトパストラベラー』から様々な作品に取り入れられたHD-2Dは、現行機で2Dグラフィックの最高峰の一つとして高い評価を得ており、ドラクエへの適用についても一定の信頼と期待感があったと思われる。
HD-2D版はSFC時代よりも画面全体に対してキャラクターが小さく、最初は戸惑った。これは元々のFC/SFC版におけるキャラクターサイズがフィールドや建物に対して大きかったという事だろう。慣れてくれば本作の縮尺で違和感なく遊ぶ事ができた。
これまでのHD-2D作品は特に光やエフェクトのグラデーションに豊かな表現が多いのに対し、ドラクエIIIのエフェクト表現はやや控えめ。SFC版のエフェクトに準拠する形でリファインした調整となっているように見えた。
人によって好みはあれど、これまでのドラクエIIIの移植作の中では最も洗練されている2D表現であると思う。
ドラクエIIIについては常々『VIII』や『XI』のような3Dフルモデルでのリメイクを遊びたいと思っていたので、HD-2Dの初報については悲喜交々で見ていたが、2D⇒3Dは、3D表現時の破綻を無くすための配慮が非常に多いハズ。実質完全新作を手掛けるほどの労力が必要と考えると、厳しいところなのかも知れない。
本作のセールスでドラクエIIIの潜在ニーズが喚起され、将来3Dリメイクされる可能性に繋げられればと考えている(気の早い話かもしれないが…)。
FC/SFC版からの変化点
本作はニ度目のリメイク、令和の時代に舞い戻ったドラクエIIIという事もあり、全体的に遊びやすさに磨きがかかっている。筆者の印象に残った点について整理しておきたい。
1.ルーラのファストトラベル化
FC/SFC版ではルーラで移動できる場所に制約があったが、本作ではダンジョンを含め全てのロケーションに対してルーラで一発移動する事ができるようになった。ルーラ=ファストトラベル(実質)であり、移動のストレスは大幅に緩和されている。
2.バトルテンポの改善
SFC版にならって、モンスターはグリグリアニメーションする。その分テンポが若干悪くなるものの、戦闘中のバトルスピードを「超はやい」にすると快適に遊ぶ事ができる。ムチやブーメランなどの複数攻撃武器も近代ドラクエと同じく一括・平均ダメージ表示でテンポアップしている。
3.戦闘バランスの調整
呪文を使えない戦闘向きの前衛職に特技が追加され、戦闘での汎用性が増した一方、呪文を使う後衛職については呪文の威力が一律で増している。
筆者の初期パーティは「勇者・魔物・盗賊・僧侶」であったが、僧侶が最初に放ったバギの平均ダメージが20を軽く上回ってギョッとした。
その後、僧侶は賢者に転職。各種攻撃魔法を使うたびに叩き出すダメージ値に新鮮な驚きがあった。本編クリアまでなら、攻撃魔法にも十二分に活躍の場がある事だろう。
一方、敵キャラは一部2回行動するモンスターが増加。ボスに至っては2~3回行動となるため、敵の攻撃も激しくなっている。パーティ・モンスター双方にアッパー調整がかかっているため、原作とは違った緊張感がある。ドラクエXIのように、レベルアップ時にHP/MPが全快するようになった事による調整と言えそうだ。
細かい変更点は枚挙に暇がないが、大きく分けると上記が変化点として気になったポイント。原作からかなり手を入れているものの、全体的なプレイフィールは原作らしさを残しており、個人的には良い塩梅の調整と感じた。
オーケストラアレンジによる完成系のサウンド
ドラクエ3はSFC版の時点でオーケストラにグッと近づいた音色となっており、完成度は非常に高かった。
HD-2D版では音質が更に向上。まるで「交響組曲 ドラゴンクエストIII」を聴いているかのような臨場感でプレイする事ができる。
”すぎやん”と呼ばれ親しまれた、すぎやまこういち氏が遺した名曲の数々を現行機のベストコンディションで堪能できる。名曲に耳を澄ませながら原作を追体験できるという贅沢なひと時を、多くのプレイヤーに体験してもらいたい。
「原作の補完」に注力したシナリオ
ストーリーに関しては2024年11月現在、クリア後の配信について禁止されている事もあって詳しい言及は控えるが、筆者が最も印象に残ったポイントは「補完」である。
原作FC版では容量の都合でオミットされたイベントや、SFC版でも語られる事がなかったエピソード、設定上おかしなところに対する修正など、かなり細やかなところにまで手が加えられている。
・後世に残されたロトの装備(剣・鎧・盾・兜)について
・勇者の母親との会話イベント
・バラモスが勇者の行く手を阻むために講じた妨害手段
・冒険の様々な場所で目にする、オルテガの足跡をたどるエピソード
・ルイーダの酒場のルーツ
……等々、イベント描写については徹底している。
非常に細やかに手が加えられていて好感触な作りとなっているが、これは恐らく後に続く『ドラゴンクエストI・II』に向けた布石であると筆者は考えている。ネタバレは控えるが、エンディングまで辿り着いたプレイヤーであれば、『III』と『I・II』との結びつきが強まったと感じるのではないだろうか。
気が早い話だが、来年のドラクエI・IIが楽しみである。
各種やり込み・追加要素
本作のやり込みは、大雑把に分けると以下の通り。
1.遺品(落とし物)収集
フィールドの所々に、過去の冒険者たちが落とした遺品があり、収集する事でアイテム・種・装備品を整える事ができる。過去作クリア済みのプレイヤーにとっては、フィールドをくまなく歩き回るモチベーションになるし、金策の面でもパーティ強化の面でも非常に有用。
2.ちいさなメダル集め
SFCから踏襲。落ちている場所は一新されているので、また一から探し直す楽しみ(?)がある。
3.はぐれモンスター
邪気が薄れ人里に棲みつくようになったはぐれモンスターを仲間に入れる事ができる。一部のモンスターはつかまえるのにコツが居るため、特に理由が無い場合、まもの使いをパーティに入れて確実に保護しておきたい。
4.モンスターバトルロード
保護したはぐれモンスターを闘技場で戦わせる事ができる。同じ種類のモンスターを複数仲間にする事でモンスターが強化され、より高いランクでのバトルを勝ち抜く事ができるようになる。
5.その他
詳細は割愛するが、シリーズでも恒例となったクリア後の追加要素は本作でも健在。クリア後要素を制覇するには全方位的なやり込みが必要なので、ドッシリと腰を据えてプレイするのが良いだろう。
PS版ではトロフィーにも対応しているので、本作が気に入ったプレイヤーはプラチナトロフィーを狙うのもアリ。
また、HD-2D版はタネを大量に入手する事ができるので、集めたタネを推しキャラに注ぎ込んで最強ステータスを目指すのも実用性あるやり込みになる。
期待値が高すぎる故に目立つ問題点
ここまで本作の魅力を語ってきたが、HD-2D版の評価について、ネットではネガティブな意見も少なくない。基本的にはプレイヤーの母数が多い事と、原作(それも伝説級の名作)のリメイクに求めるハードルの高さによるものだろう。
ネットの評判を一通り見た限り、ネガティブな意見をまとめると以下のような感じ。
バトルの調整に関して
-エンカウント率が高い
-バトルの調整が雑
-難易度がぬるい(特に楽ちんモードの仕様)
-まもの使いが強すぎる
-敵の複数回行動が増え、煩わしい
-勇者が活躍できない
移動速度の遅さに関して
-フィールド/ロケーションの広さに対してキャラクターの移動が遅い
-船が遅い
-ラーミアが遅い ★
グラフィックに関して
-HD-2Dの魅力を活かしきれていない
-3Dフルリメイクが遊びたかった
-ドラクエ7のような視点の回転が欲しかった
-夜や洞窟など暗い場所が見づらい ★
UIに関して
-戦闘中のHP/MPのフォントが小さい ★
その他
-作品のボリューム/クオリティに対し高価格
-ポリコレへの配慮が中途半端 ★
-あぶないみずぎがあぶなくない(!?)
★をつけた項目は筆者も同意する内容。もし、アップデートで改善できるなら是非とも調整して欲しいポイントだ。
それ以外の項目について十分許容範囲内。ネガティブな反応に対し筆者が反論の私見を羅列するのは不毛なので、ここでは控えさせて頂く。彼らの気持ちが理解できないワケでもないからだ。
一方、上記のようにまとめてみると、ストーリーに関しては驚くほど否定的な意見が見られない事が分かった。追加イベントの補完に関しても蛇足感はなく、ドラクエIIIにおけるストーリーテリング、ドラクエI・IIとの繋がりを意識した描写は成功を収めていると言える。
少なくとも筆者の目から見て、駄作とは全く感じなかったし、クリア後の追加要素含め、寝食の時間を切り詰めてまでハマる程の魅力はあったと明言させて頂こう。
また、上記苦言を呈しているユーザー諸氏も、欠点を理由に途中で投げ出した、などのコメントはほぼ皆無だったように思う。何だかんだ言いつつもプレイはしているし、クリア済みのプレイヤーも少なくない。
ホントに駄作なら、クリアまで遊ばれるワケがないのだ。
本作は二度目のリメイクでありながら、発売初週でパッケージ版が80万本を超える好調なセールスを記録しており、100万本はほぼ確実。SFC版の販売本数超えも射程圏内にあるだけに、否定的意見の絶対数が多いのは宿命と言える。
まだ発売されて2週間ほどしか経過していない今、名作か否か結論を急ぐのは早計であると筆者は考える。
まとめ
”そして伝説へ…”のサブタイトルの通り、伝説のRPGとしてゲーム史にその名を刻んだ『ドラゴンクエストIII』。
そんな名作が2024年に復活。FC/SFC版をプレイした歴戦の勇者達も、各地で復活を果たした事だろう。
名作であるが故に全方位でプレイヤーを満足させる事は難しく、賛否入り混じる状況ではあるものの、冒険を諦めてしまった勇者は決して多くはない模様。筆者も心置きなく勇者の使命を果たした次第。
『ドラゴンクエストI・II』へ勇者ロトの伝説を語り継いでいくためのストーリーテリングはキッチリと行われており、来年どのような伝説へと繋がっていくのか、興味はつきないところ。
本作を一言で表すならば、
現代に蘇り、再び伝説を紡ぎはじめた国民的RPG
である。
時間に余裕があるならPS5版を遊びなおしてプラチナトロフィーゲットしたい。そう思わせてくれるゲームだった。
まだ、ドラゴンクエストIIIの伝説は始まったばかりだ……!
いつもより長めとなったドラクエIIIの選評は以上。
余談だが、HD-2Dの本命は『クロノトリガー』だと思っているので、いつかリリースされる日まで、HD-2Dのゲームは暖かく見守っていく所存。
次回もよろしくお願いします。