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私のケガ、はたして「労災」に該当するのか。悪質なドライバーには厳罰を!
1.その後
さて、交通事故にあってから10日が経過しました。医師の診断書によれば、そろそろ快方に向かってもよいはずです。しかし、まだまだ手足が痛みます。今日も治療を受けました。先日、警察での調べで私は、加害者にはしかるべき刑事上、行政上の責任が問われるべきだ、と答えました。被害者の私が痛い思いをしているのに、加害ドライバー本人が何ら無答責ではフェアではありませんので。
それにしても最近、一部ドライバーのマナーはどうなっているのでしょうか。青信号で通行中の歩行者(私)をはねること自体論外としても、当地では横断歩道でも信号機がなければ歩行者を無視する手合いが散見されます。なかには数十メートル手前から手を挙げて横断するとの意思を伝えても、速度を落とすことなく平然と目の前を走り去る輩もあります。その多くが(軽)トラック等の社用車(営業車)であることが印象的です。商号等が車体に表示されているのに、と私には彼らの神経が理解できません。
師走ゆえ、たしかに現場や用務先に急いで向かわねばならぬ事情もあるのでしょう。だが法律上、そのような抗弁は意味を有しません。常に高い注意義務(安全運転義務、道路交通法第70条)がドライバーには課せられているからです。そこで、もし重大な人身事故を惹起せしめたなら、彼はどうなるのでしょうか。過失はおろか、「未必の故意」すら認定されかねません。そうなれば、逮捕のうえ勾留、実刑判決、勤務先からの懲戒解雇(退職金の不支給もありえます)との一連の処分は必至。むろん本人は自業自得。ただ、ご家族はお気の毒です。
2.未必の故意(刑法)
ちなみに、未必の故意とは何でしょうか。刑法学的には確定的な故意ではないものの、ドライバーが「もしかしたら、これで歩行者をはねることになるかもしれないな、でもまあいいや」という心境が未必の故意です。私は、人身事故においては人との衝突(暴行)の未必の故意を認め、故意の傷害罪(傷害致死罪)の成立を認めるべきだと考えます。そうでなければ、交通弱者たる歩行者側の被害(不利益)のみが大きすぎるからです。また、それが市民感覚でもあると思われます。裁判所(刑事部)は、加害ドライバーに甘いですね。自動車業界にいらぬ「忖度」でもしているのでしょうか。
もっともこの場合、困ったこともあり得ます。加害ドライバー側の(任意保険の)保険会社から、保険金が支払われない虞があることです。すなわち、もし加害者に未必の故意による故意犯が認定されると、その非違性ゆえに保険会社は保険金の支払い自体を拒否する可能性があります。そうすると、当該ドライバーは被害者に対する損害賠償を単独で負担・履行せねばなりません。しかし、ドライバーに現実に支払い能力がない場合には、被害者は民事上の損害賠償を実質的に受けられなくなることもあり得ます。処罰を望む被害者にとっては、結果的に想定外の「やぶへび」です。困ったものです。
3.通勤災害
ところで、私に労災の適用はあるのでしょうか。たしかに通勤途上の災害は、事業主自身の責任ではありません。しかしながら、仕事あっての通勤のため、業務上の災害と同等の給付が行われます(労働者災害補償保険法7条1項2号)。もっともその認定には、「『通勤』という事実の存在」ならびに発生した災害が「住居と就業の場所との往復」であることが原則です。この場合の「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点であるところ、とされます。
したがって、もし通勤とは関係ない目的で合理的な経路を逸れて関係のない行為をした場合、その後にその間の通勤経路に復帰したとしても、もはや通勤とは評価されなくなります。ただ、日常生活に必要な行為で、やむを得ない事由に基づく最低限必要な場合は、通勤経路に復したとき以降は通勤とみなされることになります(同条3項但書き)。たとえば、スーパー等での日用品の買い物や介護・通院・保育園の送り迎え等がそれに該当しましょう。
私の場合には、当日は仕事帰りでした。また、駅から自宅まで通常のルートでしたので、幸い上述の条件に合致するものと思われます。その結果、「通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等」(含要介護状態)として、保険給付がなされるはずです。さっそく、所轄の労働基準監督署長に労災保険給付請求の検討もしてみたいと思います(どちらが有利でしょうか)。もっともあの日、仲間と一杯やって帰れば、交通事故自体に遭わずに済んだのかもしれません。率直にそれも考えます。こうしてパソコンのキーを叩くときに痛みを覚えると、やはりその方がよかったなと思われます(当然ですね)。
4.最後に
というわけで、これが本年最後の私のコラムになります。勝手なことばかりを書き連ね、失礼をいたしました。また、いろいろご意見をお寄せいただき、ありがとうございました。でも、これでも自制しているのです(私の論文はもっと「攻撃的」です)。しかしながら、その視座は常に「額に汗して働く労働者の側」にあります。そのことだけは、これまで一貫してきたと自負できます。そして、大みそかは例年、ベートーベンの『第九』ならぬ、労働歌『インターナショナル』を独り斉唱するのです。変わってますよね 笑
みなさま、本年は弊法人の『キャリア・オアシス』がお世話になりました。
来年もよろしくお願い申し上げます。それでは、どうぞよいお年をお迎えください。そして来年は、ご一緒に爆発しましょう。
ごきげんよう。
オイカワ ショウヨウ
横浜市生まれ。法政大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
複数の国家資格を有し、『一般社団法人地域連携プラットフォーム』に在籍する傍ら『法政大学ボアソナード記念現代法研究所』研究員を務める。『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。正月には『箱根駅伝』での母校の現地応援を恒例とする。