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人事部の「あなた」へ


1.労働法の法的性質

労働関係を規律する法令の多くは、その性質上「強行法規」であると解されます。すなわち、これに反する法律行為は無効とされるのです。また労働法の世界では、裁判所によって形成された「判例法理」も大きな働きをなします。そこでも「当事者の合意の有無や内容にかかわらず」使用者側の権利濫用(民法1条3項、労契法3条5項)や公序違反(民法90条)として、強行的に解決、しかも労働者側に有利に図られることもあります。

このように、労働契約関係とは形式には私人同士の法律行為ですが、労働者や労働関係の有する特殊性、つまり両者の力関係の不均衡にかんがみ、特別に国家がそこに(立法的、制度的)介入するとの仕組みになっています。言い換えれば、(労働)法はそうした弱者たる労働者による「個人の自由な意思」の信ぴょう性につき信を置いていない、ともいえるのです。だからこそ、君はあのときこう言ったよね、ああ「約束」したよね、との使用者側の言い分が、裁判所でのちに否定されてしまうときさえあるのです。

2.同一価値労働同一賃金

そうしたなか、先般『労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律』が成立しました。同法は、国に対し雇用形態の異なる労働者についてもその待遇の相違が不合理なものにならないように、労働者の待遇に係る制度の共通化の推進等の施策を講じることを求めています(6条1項)。もちろん、具体的に何が「不合理」であるかにつき、今後の裁判例の集積を待つしかありません。

そこで、2018年の『パートタイム・有期雇用労働法』によって両者が同じ法規制の下に置かれたとの経緯をみますと、今後そうした「正社員」との雇用形態差別が是正され、同一価値労働同一賃金の方向に進んでいくことが期待されます。もっとも、それにより人件費コスト増加を懸念する使用者ならびに正社員としての既得権益保持に固執する一部御用労働組合(company-union)らが共同して、その実現に抵抗することも懸念されるところです。

3.お願い(労働者は「活きた存在」)

そのうえで、とくに人事部のあなたにお願いしたいことがあります。
 
第一に、そうして労働者が使用者側の事情に「合わせる」ことばかりを求める前に(法的には、『労働条件対等決定原則(労働基準法2条1項)』があります)、経済的に実質的優位にある使用者側にこそ、まずは弱者たる労働者の有するそれぞれの個別事情につき、ご配慮いただきたいものです。労働者一人ひとり「活きた人間」なのですから。

第二に、会社が指示する新しい仕事が気に召さなければ、「転職」等へ、とあなたはおっしゃる。だが、人間はそれほど器用には生まれついていないはず。失礼ですが、事務職であるあなたにして、まったく別な職への転向が直ちに容易でしょうか。ときに人事の一部関係者に散見される、生身の労働者をあたかも将棋の駒のごとく自由に動かせるとお考えのように思えてならなりません

第三に、自惚れはおやめになったほうがよろしい、かと。あるいは、あなたご自身は私とは異なり、最後まで使用者による強引な退職勧奨や不当な整理解雇等の対象から除外されるとお考えなのかもしれません。しかし、使用者の目から見れば、あなたも私も同じように見えているはずです。それが「資本の論理」です。そう、だから次回はあなたの番なのです。

プロフィール

及川 勝洋(オイカワ ショウヨウ)
『地域連携プラットフォーム』に勤務の傍ら、某大学の研究所に所属。
複数の国家資格を有し、また『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。