なぜ『技能』士? 技術士でなく(その1)
1.明治時代の学者
私ごとで恐縮ですが、私たち夫婦の披露宴で司会をしてくれたある友人は、江戸・明治の洋学者たる尺振八の子孫でした。この人物は、「Sociology」に「社会学」という訳語をつけ、また「Curriculum」を「教育課程」と訳したことでも知られています。
このように明治時代の学者の仕事の第一は、西洋の概念や専門用語(学術語)につき、いかに適切な訳出(命名)をするかにありました。有名な話ですが、「民主主義」もその一つ。その後、中国や朝鮮半島といった北東アジア地域に伝播、定着しました。
2.学術語(専門用語)
本来、学術語はそれぞれの学問体系のなかで規定された厳密な意味をもっております。ところが、門外漢が英和辞典をうのみに安易にそれを日常語に翻訳してしまうと、思わぬ誤解を招くおそれがあります。原語との語義やニュアンスの相違があるからです。
たとえば、私たちにとってかかわりの深い心理学ではどうでしょうか。「行動」「学習」などといった心理学上の専門用語は、われわれが用いる日常の言葉とは意味が異なるもののようです。心理学用語たる「ヒステリー」も、日常語とは意味がズレているようです。
3.心理学?
そもそも、その「心理学」という名称そのものも、いかがなものかと思われます。「Psychology」の訳語として同じく明治時代に作られたもののようですが、ネズミの迷路学習の実験や生体電気現象記録装置がなにゆえ「心理学」なのかと昔、不思議に感じられました。また文学での「心理描写」とも関係がなさそうです。
そうであるならば、心理学が世間で誤解される「読心術」とは異なることの証として、「意識」のような主観的現象を初めからその研究対象から除外すればよいのに、と思うのです。もっとも、名称は単なる記号に過ぎず、名が体を表すものではないと考えれば、たしかにそうした疑問は解決します。ただ日本語として、表意文字たる漢字を使うわれわれは、どうしてもそこに何らかの意味を求めがちです。(続く)
プロフィール
及川 勝洋(オイカワ ショウヨウ)
『地域連携プラットフォーム』に勤務の傍ら、某大学の研究所に所属。
複数の国家資格を有し、また『府省共通研究開発管理システム(e-Rad)』に登録され、研究者番号を有する研究者でもある。