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するり寿命ぽろり

ワイパーで目ん玉をキュッキュするプロが、渋谷には大量にのさばっている。

ちょいとそこの旦那、いっちょキュッキュしていきやせんか?

そうすると大抵の者は、ふむいいだろうとプロに目ん玉を差し出す。

その差し出された目ん玉を、プロは愛用のワイパーで入念に擦っていく。

一点の曇りもなきよう、それでいて目ん玉をすり減らすことができるだけないように__

というのは、どんなプロでも、掃除する際にはどんなに気をつけていても少々すり減ってしまうものだからである。

そのすり減らし具合を、最低限におさえるのが、プロの仕事なのだ。


そろそろいい頃か、とプロはワイパーを置いた。
手の中には、透き通った輝く目ん玉があった。

それを渡すと、通行人は大層喜び、目ん玉をかぽりと目の穴に埋めた。

だが、だめだった。

ぽろり。

その者の目から、はめたはずの目ん玉が外れて落ちたのである。

慌てたそいつは何度も何度も目ん玉を穴に押し込む。

でも、それを嘲笑うかのように目ん玉はそいつの指の隙間からするりと抜けて、地面に突っ込んで弾けた。

・・もう寿命だったんでやしょう。

プロとして、自分がピカピカにしてやった目ん玉が寿命を迎えるところを見るのは胸が痛いが、これはもうどうしようもない。


その男は、自分のぐちゃぐちゃになった片目をそのままに、背を向けて去っていった。

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