
黒鍵の奥の黒猫
ピアノの黒鍵をかぽりと外してみたら、中では黒猫がヒゲを震わせながらうずくまっていた。
とりあえず、可哀想に見えたので、黒鍵から出してやろうとしたが、つっかえてしまってなかなか救い出すことができない。
そうこうしている間にも、小さな黒猫はどんどんしおれていく。
焦ってアタフタしていると、玄関のドアが開いて娘が学校から帰ってきた。
部屋に入ってくると、娘は急に焦ったようにランドセルを放り投げ、ピアノに駆け寄った。
「ああっ、お父さん!なにのんびりしてるの!早くしないと」
普段聞くことがないような緊迫した声で告げると、娘は指を黒鍵の上に置いた。
そして、凄まじいスピードで「猫ふんじゃった」を引きはじめる。
そのあまりのオーラに、思わず後退りして呆然と娘を見つめるしかなかった。
しばらくして娘は最後の和音を激しく打ち、やっと鍵盤から手を離した。
「ふう・・間に合った」
汗を拭う娘の膝には、真っ黒な子猫がちょこんと座っていた。