ゾウムシの望み
からっからのゾウムシが何かを口走った。
その言葉は、第一発見者にはこう聞こえた。
「イスタンブール行きてえ・・」
また、違う人には、
「残してきた妻に会いてえ・・」
また、最後にやってきた者には
「あったかいとこ行きてえ・・」
と聞こえたのだそうだ。
ゾウムシはもうからっからになっているので、その望みはどれも叶わなかったと言える。
そのゾウムシを拾い上げ、一人が言った。
「こいつは、イスタンブールに行きたがってるらしいから、そこへ連れていってやる」
ところが、その者を引き止める者がいた。
「何をいってんだ。そいつは残してきた妻に会いたいっつてんだろう。俺がその妻とやらに会わしてやるからそれをよこしな」
「なんだと」
もみ合いになりかかっている二人。
「まあまあ」
そこへ、最後に見つけた者が割り込んできた。
「この虫は暖かいところに行きたいといってるのです。二人とも、その哀れなゾウムシを私にお渡しください」
「「なんだと!」」
ついに三人がもみ合い、取っ組み合い、ついには近所迷惑なほどの大喧嘩に発展した。
取っ組み合いに熱中しすぎて、手からゾウムシがこぼれ落ちてそのまま排水路へ流されていったのにも気づかずに。