くっつく選択
不運なイソギンチャクを助けたことから永久に結ばれあってしまったコバンザメのオス二人は、嫌々ながらも一緒に暮らし始めることにした。
そう、結ばれるとは、物理的にもであるのだ。
二人はお互いの体にぴたりと魔法のようにくっついてしまっていて、どんなに引き剥がそうとしてもその滑らかな肌が引き攣るだけでなんの意味はなかった。
だから、二人は早々に諦め、二人分の体を抱えてあっちへふらふらこっちへふらふらしながら何とか生活を送っていった。
こんなことなら、あの、ちょっと気の毒なイソギンチャクなどほうっておけばよかったと、二人は同時にため息をついた。
そんなある日、その当人のイソギンチャクが訪ねてきた。
穏やかに笑いかけようとしても、どうしてもその小さな生き物を見る二人の目はつりあがってしまう。
イソギンチャクは、その視線に怯え、その細かなひだひだを全部仕舞い込んできゅうっとなってしまった。
二人は顔を見合わせ・・ようとしたができなかったので、そのうちの一匹がイソギンチャクに優しく問いかけた。
どうしてこんなところに来たんだい。お前はもっと浅瀬の方で生活をしているんじゃないのかい?
すると、イソギンチャクはやっときゅうっとなるのをやめて顔を出し、それからちょっと躊躇ったあと、透き通った声で歌い出した。
はなる はなるる らうらうるん
岩と貝に誓いて 水紋に記す
歌い終わると、イソギンチャクはこちらの顔をじいっと見つめ、それからまたきゅうっと体を丸めてしまった。
その歌はなんだい?
もう一人のコバンザメが目を丸くして問うた。
その声に、またイソギンチャクは顔をちょっとだけ出して、囁くように言った。
ぼくをたすけたせいで、ふたりはくっついちゃったのですか?
コバンザメ二人はなんと返したら良いのかわからず、口をつぐんだ。
イソギンチャクは続ける。
さっきのうたは 、ふたりにかかったそのまほうをとくうたです。
もしはなれたくなったら 、あのうたうたってください。
それだけ一息に告げると、イソギンチャクはどこかへ姿を消してしまった。
コバンザメ二人は呆然として口を開けていた。
あの歌は・・まさかハギの奥さんのところまで聞きに行ってくれたのか・・
二人の頭の中に、物知りな、川に住むハギの奥さんが浮かび上がる。
何はともあれ、早くあの歌を歌わなければ。
だが、なぜか二人とも口を動かすことを躊躇ってしまう。
早く離れてしまえばいいのに、二人はなぜかその気になれなかった。
なんだか、この体の重さに慣れてしまって、相手がいないことを考えるとなんだか寂しいのだ。
もう、いいや、このままでも。
二人はその瞬間心を通い合わせ、胸がじわりと温かくなって・・・
次の瞬間そこにいたのは、大きな一匹のサメだった。