リカバリー戦略について考える:プロサッカー編
今回は成人男性のサッカー選手の
リカバリー戦略について、
Mujika I et. al. 2013、
Leeder J et. al. 2016、
Abaïdia A-E et. al 2018と
Ribeiro J. et. al. 2021、
4つの本・文献を中心に書いていきます。
ここでは成人の、しかもプロレベル以上の
サッカー選手がメインの対象となった文献を
まとめますが、アマチュアや大学生、
高校生、そして他のスポーツをしている方や
一般の方にも当てはまることがあるので
是非ヒントにしていってください。
疲労とリカバリー
まずは疲労とリカバリーの定義を紹介します。
疲労って何?
Mujika I (p.6.2013)での疲労の定義は
”Fatigue is a state resulting from
physiological and psychological
constraints leading to a reduction
in physical or mental performance.”
としています。
つまり、”疲労とは(プレー中に起こる)
生理的・心理的な負荷により
身体的・精神的なパフォーマンスが
低下した状態”としています。
サッカーや他の激しいスポーツを
していれば筋肉にダメージを受けたり、
体を動かすためにエネルギーを
作り出さなければいけません。
顕微鏡ぐらいでしか見えないぐらいの
小さい筋肉へのダメージや
エネルギーを作り出す際には
副産物として体は炎症を起こし、
また酸化していきます。
(ここではざっくりと書きます。)
またスポーツは肉体だけでする
ものではありません。
プレー中には様々な意識的に、
そして無意識的に決断を
刻一刻と変わるフィールド上で
選手達はしています。
ここはパスをするべきなのか?
シュートするべきなのか?
ドリブルで突破するべきなのか?などなど
こういった様々な決断には
エネルギーが必要です。
またサッカーでも他のスポーツ同様に
選手達は様々な感情を経験します。
レフェリーが見当違いのコールが出した、
プレーがうまく行かない時などに
起こるネガティブな感情。
逆に今日は練習でやってきたことがうまくいっている、
パスも通る、ゴールが決まった時などに起こる
ポジティブな感情。
こういった様々な感情を
コントロールする時にも
エネルギーが必要となります。
こういった生理学・心理的な負荷が重なり
選手は”疲労”していきます。
では、リカバリーって何?
リカバリーが起こる=以下の少なくとも
4つのことが起こることが必要です:
(Mujika I et. al. p13, 2013)より
今までのトレーニングが楽になる(=身体的適応:筋力が元のレベルに戻る/強くなるなどなど)
過負荷のリスクが減少(=オーバートレーニングの危険性が下がる=もっと追い込める)
怪我のリスクが下がる
(ここが一番大事)パフォーマンスにおける再現性の向上;つまり、何度も同じようなパフォーマンスができるようになっている状態。例:日本選手権を勝つこと、だけでなく世界選手権・オリンピックで勝つことができる。
つまり、リカバリーとは
”トレーニング前の状態に戻る。
もしくはトレーニング前以上の
状態になる”ということが言えます。
(恐らくここで多くの人は
’超回復’という言葉が
頭に出てきたかと思います。
正しいです。
ですが、個人的には
超回復というコンセプトを
重要視していません。
理由はまた今度。)
疲労とリカバリーの関係
ここまで読んでくると、
多くの人は気づいたと思います。
リカバリーをするためには
トレーニングが必要だ!ということに。
そうです。まずは練習や試合が必要です。
これらの活動の強度によって
リカバリーに必要な時間が変わってきます。
それはまたFitness-Fatigue理論などを
書く時にまた紹介しますね。
ここで覚えておいて欲しいのは
強くなるためには
”適切なトレーニングと適切なリカバリーが必要”
ということを覚えていてください。
世代がバレるかもしれませんが、
ドラゴンボールZの悟空がいい例です。
(今の子は知らないかな?
お父さんかお母さんに聞いてみて
Amazon Primeで探してみましょう。)
悟空はまだ見ぬ強敵のために
厳しい修行を己に課します。
そして、大量に食べて、寝る。
この繰り返しです。
(チチと悟飯はよく彼に
ついていけましたね。。。
そらチチは子煩悩になりますよ。笑)
このトレーニング=>リカバリー=>トレーニングの
サイクルを図で表してみました。
わかりやすいですかね?
サッカー選手の疲労が回復するタイムラインは?
現代サッカーは過密スケジュールで
選手によっては年間通して
55-60試合以上をプレーします。
これぐらいの試合数だと日本の中学生、
高校生や大学生も練習試合などを
合わせると経験しています。
むしろやりすぎなぐらいの試合数をしてますよね。
ただここにプロになると移動が入ります。
ヨーロッパ各国のプロリーグや代表になると
時差を超えて、そして時には季節が
逆の北半球と南半球を行き来したりします。
またアメリカなどの国土の大きな国では
4時間時差がありますし、
同じ国でも南部の州と北部の州では同じ季節でも
気温が全く違うことがあります。
例えばカリフォルニアなどの
西海岸で19時より試合があり、
試合が21時に終了。
代表招集がかかっている選手は
24時に飛行機に乗って、
約9時間の時差があるスペインに行き、
4日後に親善試合をする。
そして、試合終了後にはまたMLSのチームに
合流してプレーするといったことがザラにあります。
リカバリーの時間ですが
週に2回の試合があると
仮定して理想的には96時間/4日間です。
多くの選手達が試合後48-72時間後は
まだリカバリーが完璧ではないことは
既にリサーチを通して確認されています。
(スプリント、ジャンプ、筋力の低下などなど)
但し週2回の試合では現実問題として
78時間前後で
どれだけリカバリーさせることができるか?
が焦点になるでしょう。
*もちろん毎日試合をしても
壊れない選手もいますと考えられますが、
非常に希でしょう。
こういった過密スケジュールの際には
少しでもリカバリーを促し
、良い状態でプレーするには
どうすればいいのか?をここから紹介していきます。
どんなリカバリー戦略が科学的エビデンスがあるのか?(優先順位順)
栄養・水分補給
まずは兎にも角にも栄養と水分の補給です。
タンパク質・炭水化物を中心に摂っていきましょう。
炭水化物の入ったプロテインシェークを
用意しておくと便利ですね。
また試合後にプロテインシェイクを
飲むとお腹がいっぱいになってしまい
食事がとれない選手や
もしくは疲れて食欲がないという選手は
味の素さんから出ているスティックタイプの
プロテインがおすすめです。
(筆者自身も体験して、
非常に飲みやすかったです。
但し、タンパク質
含有量は少なめです。)
また水分は汗の量の150-200%、
つまり1.5-2倍の量を摂取してください。
どれだけ水分が出たかは練習・試合の前後の
体重差である程度わかります。
また水分がどれだけ補給されたかは
下の図であるように尿の色でわかります。
また水分補給の際は塩分も取っておきましょう。
推奨は61 mmol.l-1です。
(市販のスポーツドリンクの約3倍の量)
この水分は汗の量の150-200%+塩分61 mmol.l-1を
まず最初にできるだけの多く飲み、
そして後は少しずつ飲んでいくことで
6時間後には完全に水分が補填されます。
(なのでちょっと飲んだぐらいで
そのままにしている人はまだ完璧には
水分補給できていないことになります。)
また試合後は体内で炎症が起こっており、
いきすぎた炎症は
リカバリーの妨げになるので
抗酸化物質が入った果物や
野菜を多く摂る必要があります。
試合後水分補給の一環としてチェリー、
トマトやベリーのジュースを摂るといいでしょう。
その後は出来るだけバランス良く、
と言いたいところですが
選手の好き嫌いに自分なら合わせます。
とある国のラグビー代表の
S&Cコーチやフィジオの方々に試合後の食事を
聞くと最初は栄養のバランスの整ったものを
用意していたようでしたが、
選手達の”味が濃いものが食べたい”という
要望から最終的にはピザになった、
と話を聞きました。
ラグビーという激闘を戦った後ですから
食べた感じのするものを食したいという気持ちは
非常にわかります。
なので、出来るだけ選手にも歩み寄った形の食事が
試合後はいいかと思います。
折角用意しても食べてくれないと意味がありませんし、
また用意したご飯を食べずに
外に食べにいく選手も沢山みてきています。
自分が海外にいるときはあまり感じませんでしたが、
海外で戦っている選手であれば、
特に自分の故郷の味が無性に食べたくなる選手が
多くいると思います。
そんな時にのため日本人シェフを雇う選手もいます。
食は人の感情と密接に関わっているので
大事にしていきたいです。
自分も2023年のラクロス世界大会の時に
多くの選手達が日本食を欲しているのを
目の当たりにして1カ月と言わず
2週間以上の海外遠征に行く際は
即席ご飯を持っていくことを
お勧めします。
恐らく日本食がなければ
よりストレスが多くなり
ぎすぎすした雰囲気に
なったのではないかな?
と思います。
やはり母国の味が口に出来る、
それだけで心が落ち着く、
そんな事を改めて自分は感じました。
また飲酒に関しては
睡眠の質を下げと筋力を
1.5日間下げる可能性があるので
控えるようにしたほうがいいでしょう。
睡眠
栄養と同じく、睡眠はリカバリーにおいて
非常に大事な要素です。
栄養を摂り、睡眠時にしっかりと
摂ることで初めて筋肉が修復され、
脳がリフレッシュされます。
睡眠によるアスリートパフォーマンスへの効果は:
1) 集中力・決断能力が上がる
2) フィジカル能力が上がる=> つまり、睡眠中に体が良くなっているということですね。
3) 怪我のリスクが下がる。集中力が上がるわけですから、これも納得です。
など非常に多いです。
理想は8-9時間の睡眠です。
ただし多くのヨーロッパ選手達は
試合後中々寝付けないという報告があるように、
試合後はいかに体をリラックスさせるかが
勝負になってきます。
なので、
1)腹式呼吸をする
2) ヨガ
3) リラックス音楽
4) 瞑想 などなど体と脳、そして心をリラックスさせられるようなことをするのがいいでしょう。
ここまでのポイント:
睡眠と栄養・水分補給が
確保されなければリカバリーは起こらない。
私がやっているポッドキャストでも
話題になりましたが
Bリーグの選手達は移動や試合が多いので
レベルが高い選手達は
高い枕やマットレスを購入している
との事でした。
で、聞いたらリンクにある
枕でした。かなり高いですが
長持ちや保証期間も長いので
是非試してみてください。
その他のリカバリー戦略方法
これから書くことは睡眠と栄養・水分補給が
十分に確保されているという過程の中で
リカバリーの足しになるものを紹介します。
水風呂/Cold Water Immersion
今流行りのクライオセラピーを押し退け、
リサーチによるエビデンスでは
10-15°の水風呂に10-15分間浸かることで
十分ということがわかっています。
もちろんこれからクライオセラピーの研究が
進められていき、
これがひっくり返ることは十分あり得ます。
ただし水風呂もクライオセラピーも
主観的な筋肉痛などの下げるという結果もありますが、
反対に筋力を下げるという結果もあります。
ですから十分にポジティブとネガティブな側面を
理解して使うようにしましょう。
マッサージ
マッサージは古くから使われている
リカバリーの方法の一つです。
が、リラックス効果などがありますが、
リサーチにおいては賛否両論です。
但し、マッサージが好きな日本人・アジア人の選手は
沢山いるので、やるのであれば5-12分程度でいい
という結果です。
マッサージ好きな選手が申し訳ないですが、
マッサージテーブルの上で寝るくらいなら、
さっさと終わらせてシャワー浴びて
歯を磨いてからベッドで寝ましょう。
フィジオやアスレティックトレーナーの方々は
マッサージ屋ではありません。
アクティブレスト
アクティブレストも賛否両論があるリカバリー方法です。
上記同様、選手の体の反応などを
カウンタムーブメントジャンプやHRVなどのデータで
見てみるのがいいでしょう。
アクティブレストを行う場合は
15-30分で強度は最大肺活量の30-60%で
やるのがいいでしょう。
コンプレッションガーミン
プラシーボを扱ったリサーチがまだない、
という難点はあるもののリサーチで
非常にいい結果が出ています。
リサーチでは筋力、パワー、
そしてCreatine Kinaseのリカバリーに効果があり、
そして筋肉痛の軽減に効果があることがわかっています。
自分が活用している
コンプレッションは
こちらです。
フライトの時は必ず
着けてますし、
寝る時に着けることも
あります。
個人の感想ですが、
浮腫みもとれて
結構足がすっきりします。
最後に
この世の中には色々な情報がありますが、
まずは睡眠と栄養・水分補給をしっかりとしてから、
他のツールを使うことが大事になってくるでしょう。
以上
参考文献:
Abaïdia, A.E. and Dupont, G., 2018. Recovery strategies for football players. Swiss Sport Exerc Med, 66, pp.28-36.
Ribeiro, J., Sarmento, H., Silva, A.F. and Clemente, F.M., 2021. Practical Postexercise Recovery Strategies in Male Adult Professional Soccer Players: A Systematic Review. Strength & Conditioning Journal, 43(2), pp.7-22.
Leeder, J. and van Someren FBASES, K., The BASES Expert Statement on Athletic Recovery Strategies.
Hausswirth, C. and Mujika, I., 2013. Recovery for performance in sport. Human Kinetics.
Walker, M., 2017. Why we sleep: Unlocking the power of sleep and dreams. Simon and Schuster.