見出し画像

格闘技のS&C:計量後のリカバリー編(ボクシングメイン)

今回の格闘技S&Cは
計量後のリカバリーストラテジーを
自分なりに紹介したいと思います。

ストラテジー、つまり戦略というと
大袈裟に聞こえますが
そんなことはないです。

しっかりと計画的に
リカバリーすることで
今までやってきたことを
無駄にしない、

そして行き当たりばったりの
出たとこ勝負にならないようにします。

(もちろんこれが当てはまらない選手もいますし、
例外的な怪物級の選手はこの世の中にはいます。)

ただし持続的なパフォーマンス向上には
戦略的、計画的な行動は
大事だと個人的に思っています。

全てを運に任せるのは、
全てをできる限りやった後です。

多くの格闘技では階級制があり、
その階級でアドバンテージを
得るために選手は減量をします。

そして、スポーツや
団体によって
計量のルールは違いますが、

計量後選手は24‐2時間ほど
リカバリー出来る時間があります。

では、どうこの残された時間を
活用すれば勝てる可能性を
最大限にいかせるのでしょうか?


リカバリーのタイムラインを知る

計量後にどれだけ時間があるのか?

これは上記で書いたように
その格闘技によって、
そしてその試合を仕切っている
協会やリーグによって違ってきます。

ここではボクシングの
計量後のリカバリーに
使えるタイムラインを見ていきます。

例:ボクシングでの計量後のタイムライン

日本でのプロボクシングは
大体の場合において前日計量です。
もちろん契約によっては
当日計量もあり得ると思います
(可能性だけの話ですが)。

なので東京の後楽園ホールでの
興行が18時開始としましょう。
そして、計量は大体前日の午前中、
もしくは午後の早い時間です。
便宜上、正午には計量が終わると
仮定しましょう。

つまり、リカバリーに使える時間は
約18時間です。
この18時間を如何に上手に使えるのか?
折角計量をパスしても、
ここでしっかりとリカバリー出来なければ
今までの準備が勿体無いので、
必ずここも事前に準備しておきましょう。

また世界戦の場合は
そのベルトを管理する団体によっても
計量のルールが違います。

例えばIBFにおいては
計量が前日と当日両方あります。
ただしこのルールもベルト統一戦になると
そこは免除されるようです。

またファイトの契約によっても
ここら辺の計量に関するルールがあると思います。
当事者のファイターだけでなく
各陣営はそこを熟知しておく必要があるでしょう。

計量後には何を優先的に摂取するのか?

さて、ここからは科学的文献から
得られる客観的なエビデンスを
踏まえて話を進めていきます。

UFC PI Shanghaiで
エリートMMAファイター達の栄養を
管理しているReale R et al (2017)の文献を
中心に話を進めていきましょう。

彼の研究よると、
ファイターは大抵軽量の1週間前には
通常体重の5%以上の減量をしており、
この減量の差分と試合の結果に
関してはまだ直接的には証明されていないが、
この減量から体重を戻すことで
競技場のアドバンテージを得られると
信じられています。

通常体重から5-8%の減量が及ぼす影響は
許容範囲内で小さいものです。

ただしここでポイントとなるのが

減量を始める時の体の状態です:

ポイント1:ちゃんと水分補給がされている。
ポイント2:栄養素がしっかりと摂れている。

以上がしっかりとしていることにより

  1. 水分による体重の減少(いわゆる水抜き)

  2. 排泄による体重の減少

    が可能になります。

どうやって減量するのか?は
このポストの趣旨と違うので
これ以上書きませんが、
如何に栄養と水分を
しっかりと考えて摂取することが
大事かがわかると思います。

前置きが少し長くなりましたが、
計量をパスしてから
戦略的にリカバリーするためには
以下がポイントとなります:

  1. 水分補給

  2. 炭水化物の補給/グリコーゲンの補給

  3. 計量後の食事による胃腸の不快感を管理する  です。

水分、電解質、そして炭水化物の補給を計画的に行っていきましょう。

計量後の水分補給

体内水分がなくなることで
有酸素能力は低下します。
また体内の水分が体重に対して
2%なくなっただけで

運動能力、知覚能力、
そしてそのスポーツに特化した動きが
悪くなっていきます。

また汗によって電解質もなくなっていきます。
なので、この電解質の補給も大事になります。
50-90mmol/Lの電解質が
入っている水分を計量直後から重宝されると思います。

日本では恐らくOS-1が
一番アクセスしやすいかなと思います。


計量後のグリコーゲンの補給

格闘技は常に強度の高い動きが求められます。
グリコーゲンは水分や電解質と同様、
人間が動くためには必要なものです。
なので計量後は十分なグリコーゲンを
摂取し肝臓や筋肉に貯蔵しておく必要があります。

グラップリングのパフォーマンスは
間接的にではありますが、
これによって上がっています。
つまり、さらに間接的な事いうと
立ち格闘技ではクリンチの力が
上がるかもしれません。

Burke, L., & Deakin, V. (2009)では
5-7g/kg/dayが中程度のトレーニングに対して、
そして7-10g/kg/dayがグリコーゲンを
飽和状態にされる時に推奨されるています。

ここで注目したいのが

腸内での炭水化物の吸収量が1時間に60g

だということです。
そして、これに関しては様々な食事を
組み合わせることで
腸内の吸収を調整することがいいでしょう。

計量後にパッと炭水化物補給を
するのであればウィダーなどの
ゼリー状のものが良いかなと。
後述しますが栄養補給の際に
起こる胃への不快感が少ないと思います。
(これは筆者個人の感想です。)


胃腸の不快感を管理する

胃腸の中に何も入っていない状態で
プレーすることはそれほどパフォーマンスには
影響ないかもしれませんが、
計量後突然に大量の食事を
摂取するともちろん腹を壊します。

なので、過食を避け、食物繊維が
豊富な食事がおすすめされます。

*筆者もMMAをしていたので、
計量後のドカ食いは経験済みです。(笑)

具体的にどうしたらいいの?

計量後に

  1. 水抜き等で失った水分の120-150%を体内に入れる必要があります。そして計量直後には少なくとも600~900mlの水分補給をし、計画的にその後も水分も補給していきます。もちろん計量直後に600-900mlを飲んで気分が悪くなるという方は一気飲みだけは避けましょう。当たり前ですが。またこの際に電解質ですが20-80mmol/Lを摂取します。OS-1などの経口補水液は500mLで50mmolの電解質を摂取できます。ここから試合までの約18時間コンスタントに、そして計画的に、自分が気持ちが悪くならない範囲で、水分と電解質の補給をしていきます。

  2. また食事に関しては腹の調子を見て徐々に食べていきましょう。ドカ食いはお腹の不快感が増える可能性があるので避けましょう。上記の通り、計量後には5-10g/kg/dayの炭水化物を摂取していくのがいいでしょう。もちろん減量によって他の栄養素も不足している可能性は大いにあるので、体の負担にならないようにゆっくりと食べていきます。まずは炭水化物を優先的に摂取していき、そこから気分が悪くなったり、お腹を壊さない範囲で徐々に食べるものを増やしたり、変えていくといいでしょう。

  3. また上記に入っていませんが、食べ過ぎは睡眠の妨げになります。睡眠時間もしっかりと加味してリカバリーをしていきましょう。睡眠がしっかりとれていなければ、もちろんパフォーマンスは落ちます。


以上が計量後のリカバリーに関してです。

やはり格闘家にも栄養の知識は大事だなと再確認しました。

その他格闘技に関する記事:

(以下メンバーシップのお知らせ)
有料のメンバーシップコミュニティーを開設しました。

スタンダードプラン:月額¥1500(税込)

内容:
1) 有料記事が無料になります。 (月2-4回)
2)スポーツ科学・医療に関するアップデートを紹介とディスカッション(月1-2回)
3)海外の代表チームや現在日本代表でやっていた、やっていることなどの紹介(月1回)
4)海外で活躍している方々の英語のブログを翻訳したものの投稿

最高の準備をするために是非ご入会ください。

参考文献:

  1. Reale, R., Slater, G. and Burke, L.M., 2017. Individualised dietary strategies for Olympic combat sports: Acute weight loss, recovery and competition nutrition. European journal of sport science, 17(6), pp.727-740.

  2. Burke, L., & Deakin, V. (2009).Clinical sports nutrition.Sydney:McGraw-Hill

  3. Reale, R., 2018. Acute weight management in combat sports: pre weigh-in weight loss, post weigh-in recovery and competition nutrition strategies. Sports Science Exchange, 29(183), pp.1-6.


いいなと思ったら応援しよう!