【詩】熟したトマトがいらないなんて言わせない
トマトを見る。
赤くて、丸くて、
ピカピカしてる。
完璧だ。
トマトは、
僕の知ってるトマトとして、
全てを成している。
一個だけ
ずいぶん熟れて
ハリがなく、
形は崩れ、
どこかツヤもなく、
色もピカピカの赤ではない、
やつがいる。
かつて、
彼もまたピカピカだった。
いまや、
食うか食わないかの
選択をしなければいけない状態となった。
娘に孫が生まれて、
孫には母である娘が、
母にはその父である僕が。
僕には父がいて、
娘には
その祖父となる
僕の父がいるのだけれど、
生まれた孫からすれば
ヒイお爺さんだ。
その父は、
ひ孫に会いたい一心で、
孫である娘にアプローチするものの、
娘は祖父を毛嫌いする。
子どもの時、
父はなんだって叶えてくれた。
小さな僕の願いを叶えてくれた。
時には叶えられないこともあった。
なんだって叶えてくれると
思っていたのに、
叶えてくれない時もあった。
叶えてあげたくても、
叶えられない事もある。
僕は知らなかったんだ。
父は申し訳なさそうに
言い訳をしていたと思う。
そんな父は、
前よりももっと叶えられなさそうになり、
僕は大人になって、
父に頼る事も少なくなった。
父がなにかをしてくれようとすることも、
煩わしくなっていた。
僕にもいつか
その時が来る、
かつて、なんでも
叶えてくれる存在が
もう自分で叶えてしまう者を前に
役目を見失っている。
でも、言いたい。
ごめんね、ではなく
ありがとう。
僕は、あなたの愛で
僕も子どもたちも、
自分で叶えられるようになった。
熟したトマト
僕がそれを食べる。
食卓に出ないかもしれない
そのトマトの味を僕は知ってる。
そして、いずれ
僕もそうなる。
だけど、
トマトは熟している方がうまい。
それが、本当なんだ。
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