日本の「ハート・オブ・ビジネス」 徳島の中小製造業にあった組織にコーチング・対話を浸透する答え
こんにちは。コーチェットの土井本です。
コーチェットでは、普段マネージャー向けコーチング研修やコーチを担当しています。
また、地域出身の私は、コーチングをとおして地域企業の経営者さんや組織のご支援をしたいと思っています。
そんな私ですが、今夏徳島の西精工株式会社さんという会社を見学しました。
訪問のインパクトを一言で表すと「日本にこんな会社があったんだ!!」
今回「対話は、組織やチームに魂を入れる」ということを強く感じ、私にとって大事な答えを見つけた気がしたので、お伝えできれば嬉しいです。
サッカー日本代表に見たコミュニケーション
その前にサッカーワールドカップで日本代表が、素晴らしい戦いを見せてくれましたね。
上手くいったこと、いかなかったことありましたが、森保監督も含め今回の日本代表が持つ力は出し切って大会を終えたように感じました。
ベスト8の壁は本当に厚いですが、4年後成長した現代表メンバーと新しいメンバーが融合した次のチームが、ワールドカップ2026の舞台に立つことをとても楽しみにしています。
ドイツ・スペイン戦のゴールももちろん良かったのですが、今回のワールドカップで印象的だったのは、スペイン戦の前半で鎌田選手と長友選手が言い合っていた場面でした。
サッカー選手がフィールドで言い合うのはよくあることだと思いますが、この瞬間がなぜか私の心に残りました。
あの場面を元代表選手は「言い合っているように見えるが、前半からイライラしてキレそうな鎌田選手をベテランの長友選手がブチ切れずに、なだめるというか、良い言葉を掛けたのだと思う」と見ていたそうです。
また、鎌田選手自身も「(長友)佑都くんとは言い合ったりもしたし、喧嘩することもあった。それはサッカー選手として普通のこと。彼にはそういう部分で自分をさらけ出したし、彼自身もそれを受けとめてくれた」と振り返っていました。
片や旬な選手を揃えてメンバー的には"最強の日本代表"のはずだった2006年のサッカーワールドカップ。
歴代ワーストと言える結果でした。
戦術的に意見がまとまらない、レギュラーとサブでモチベーションが違ってサブ組が腐る、当時中心選手だった中田英寿さんが孤立しコミュニケーションが取れない、これらが重なりチームはバラバラになっていたことが大会後にわかりました。
お互いに話さなかった、話せていなかったのは容易に想像が付きます。
同じ日本代表でもこの違いはとても大きいです。
見た目は言い合っていても鎌田選手の言葉を長友選手が受けとめていたことを直感的に感じ、私の心に残ったのかもしれません。
「対話は、組織やチームに魂を入れる」
"話す、受けとめるコミュニケーション"が大事なのは、何もサッカー日本代表の話だけではありません。
ただ、スポーツチームの人数規模と違い、"話す、受けとめるコミュニケーション"つまりコーチングや対話が組織全体に浸透し、その結果どのような現場や企業文化になるかを伝えるのは難しいと感じることもあります。
一般的には一部の部門や人がコーチングや対話を取り入れることはあっても、全社的に浸透した現場を見ることはコーチング会社を除けば、そう多くはないからです。
しかし、私が求めていた答えが、馴染みのある地域の徳島にありました。
見学を終えたインパクトが冒頭の「日本にこんな会社があったんだ!!」
出てきたフレーズが「対話は、組織やチームに魂を入れる」でした。
西精工さんで見たことを一部ですが、お伝えいたします。
幸せを追求する会社、西精工株式会社
西精工さんは、従業員数は約250名、年商は44〜45億円くらいの徳島の製造業の企業です。
製造業の規模的には中小企業になると思います。
西精工さんは、個人の幸せと組織の幸せの両方を追求しており、個人の幸せを
「自分自身を知ること」
「自分の潜在能力が発掘されること」
「発掘された力で人の役に立つこと」
と明確に定義し、これらを実現するために会社で多くの取り組みをされています。
少しピックアップするだけでも
・朝礼
・ミッション・ステートメント
・リーダーシップ勉強会
・月行きアンケート
・経営理念作文
などが、あります。
実際に現地で見学した中から「朝礼」と「ミッション・ステートメント」についてまとめます。
チームコーチングを活用した朝礼
朝礼は、体調の確認に始まり毎朝現場のみなさんだけで1時間行われます。
いくつかのステップが進み、場の空気が変わったのは、対話の時間でした。
対話は、毎日テーマを持って行います。
私が、見学した時は「仲間と仲良しは何が違うのか」でした。
様々な年齢層の方25名ほどが集まって小グループから対話をし、最後全体で対話を行います。
小グループの対話では、個々が自分の言葉で語り、真剣に仲間の言葉に耳を傾けることで、一人一人が持つ考えや想い、熱量が自然と引き出されるのを感じました。
全体の対話では、ファシリテーターがチームコーチング的な深掘りをし、発言者、聴く人がお互いから学び、仲間の考えや価値観を知るサイクルが生まれていました。
対話をとおして、場が一つの方向を向こうとしているのを私は感じました。
なお、ファシリテーターは役職者に限らず交代制だそうです。
途中、勇気を奮って発言している人がいることも気づきました。
自分の考えを出すことに最初は、少し勇気がいるのかもしれません。
(後から分かりましたが、中途入社の方でした)
ファシリテーター役もおそらく最初に周りを導く時は、勇気を出して乗り越えてきたのだろうなとも感じました。
誰かがリーダーシップを発揮したり、勇気を持って乗り越える姿を目の前で見ることで、自分もやってみよう、乗り越えてみようと全体が成長する姿勢に繋がり、それがまたお互いに反響するのだと思います。
楽ではない面もあると思いますが、全員が毎朝互いの成長に真剣に向き合う、エネルギーに溢れた力強い場でした。
これを毎朝行い、それから仕事に入ります。
毎朝エネルギーに溢れた状態からのスタートです。
こんな組織が弱いはずはありません。
社長自身は、朝礼で行っていることはチームコーチングだと認識がありました。
一方で、社員のみなさんには最初から「コーチング」という言葉では伝えず、10年間やり続けた後に「実はね、これコーチングって言うんだよ」伝えられたそうです。
コーチングを組織に浸透するヒントが、ここにはある気がします。
個人の力を引き出すミッション・ステートメント
西精工さんのミッション・ステートメントとは、入社時に作成する「自分を知り、潜在能力を発掘するための自分の宣言書」です。
ミッション・ステートメントは、
ストレングスファインダー
ミッション・ステートメント(何を持って覚えられたいか)
役割(誰に対してどんな役割を発揮するか)
信条(自分の信条10か条)
死ぬまでにやりたいこと(10個、日付入り)
を紙に書き、なりたい自分の姿はどんなものか、その姿にどう近づくか、具体的な目的と目標をプロセスに落とし込んでいきます。
また、このミッション・ステートメントは、全員分を社内に張り出してお互いで共有しています。
2年に1回、または人生の節目に更新するそうです。
ただ、西精工さんは地域の中小企業なので地元徳島の高校生が就職します。
また、障碍者雇用にも力を入れています。
社員全員がすぐミッション・ステートメントを書けるわけではありません。
これを支えるのが、対話を大事にする企業文化で、上司や先輩が半年間つきっきりで問いかけながら新人の方のミッション・ステートメントづくりをサポートします。
この話を聴き、私は、"みなさんにとってエネルギーが出るポイントはなんですか?"と問いかけてみました。
上司にあたるマネージャーのみなさんから
「チームメイトを持って成長を感じた瞬間、仕事の楽しさは人の成長」
「新しい目標を部下に伝え、想いを受けて応えてくれとき」
「難しいことへのチャレンジ、お互いのことを話し合い、相手からも反応があったとき」
「気にせんでいいからやってみよう!と場をつくること、新入社員の成長」
こんな言葉を返していただきました。
上司や先輩が、目の前の部下の100%の力を引き出し、個人の幸せを感じてもらうにはどう問いかけ、話を聴き、フィードバックや提案ができるかと真剣に向き合っているのです。
まとめ 日本の「ハート・オブ・ビジネス」
西精工さんの見学が終わったあと、参加者同士で話していたのは「この体験を言葉で伝えるのは難しい」でした。
現場で見て感じることがあまりに多すぎたからです。
しかし、「西精工さんでの体験」にかなり近いことを表してる本があることに後日気づきました。
「ハート・オブ・ビジネス」です。
この類の本は、内容は良くても「でも最近のアメリカの話でしょ」の気持ちが、どこか私にはありました。
ですが、見学して改めて読むと、何年も前から試行錯誤して本の内容以上のことを西精工さんは実行されてたのだと気づきました。
ハート・オブ・ビジネスで私が好きなのは第3部で、タイトルは「ヒューマン・マジックを解き放つ」。
自分の言葉で語り、受けとめてもらうコミュニケーションは、人の持っている力を解放し、現場の体温を上げ、血を通わせる。
西精工さんは、まさに日本のハート・オブ・ビジネス。
「対話は、組織やチームに魂を入れる」ことを教えていただきました。
コーチングや対話による人を育てる組織つくりは、アメリカやベンチャーだけの話ではなく、地域の中小企業にこそ活きると私は思います!