泊まっていたホテルが一夜にして消えてなくなった話! メルボルン編
シドニー編から続く第2弾
(サムネイルはメルボルンのシャングリラホテル。こっちには泊まってません)
メルボルンに滞在された方の多くが、
メルボルン空港 → スカイバス → サザンクロス駅
というルートをたどられたのではないだろうか?
高速道路を走るスカイバスの車窓から、500万都市メルボルンの高層ビル群が見えてきた時の興奮は忘れられない。
摩天楼が近付いてくると右手に観覧車が見える。
シンガポールにもあったし、ロンドンにもある。横浜にも葛西にも、もう無くなってしまったけれどお台場にもあった。
「メルボルンにもあるんだぁ」
と頬が緩む。
観覧車が印象に残っているのは、この時見えたからだけでなく、一番長く滞在したホテル Four Points by Sheraton.Docklands(以下シェラトン・ドックランズ)が観覧車のすぐそばに位置していたからだ。
サザンクロス駅の南西に隣接するドックランズ地区。
ヤラ川を望むという絶好のロケーションに加え、トラムの無料運行エリア内終点駅(WaterFrontCity-stop)の真ん前だったのだ。
市内のどこにいくにも本当に便利だったし、何より無料はありがたかった。
その上、観覧車があるThe Districtという商業施設には、レストラン街のほかにウルワースやコストコがあって朝食の買い出しに重宝した。
ホテル!シドニー編でも触れたが、オーストラリアのホテルの入り口は地味すぎて本当に分かりずらい。
それはドックランズのシェラトンもマリオットも例外ではなかった。従業員通用口のような自動ドアがあるだけの入り口だった。
しかし、入ってみると対応は親切で、チェックイン後僕たちはラウンジに通されてウェルカムドリンクをいただくことになった。
メルボルンにはヤラバレーというブドウの名産地があり、そこ産のワインが名高い。今回は都合でそこまで足を伸ばせないので、せめてこの機会にオーストラリア産のワインをいただけたらと考え、妻は白を、僕は赤を頼んだ。
大き目のワイングラスに入ったワインを口に運んだ瞬間に驚いた。
「えっ 何これ? うまい!」
赤ワインは、香りこそ爽やかな感じだったが、味はタンニンの苦味の影に甘みが同居する複雑な味わいだった。テーブルワインにはないコクと深みがあった。
妻の白ワインも味見させてもらったが、酸味が立ちすぎず爽やかでシャープな味わいだった。
あまりにもおいしかったので、バーカウンターまで行って
「ウェルカムドリンク、とてもおいしかったです。産地はヤラバレーですか?」
と感謝を伝えつつ地元のワインかどうかを尋ねた。
バーテンダーは、ボトルをすぐに見つけてラベルをチェックしてくれた。
赤も白もヤラバレー産だった。
「やっぱり!」
僕たちも、バーテンダーも笑顔になった。
サービスされた側が「直接お礼を言いたいほど満足」して、
サービスした側も、自分のサービスに感謝され笑顔になる、こういう関係が作れるところがホテルの楽しみのひとつだ。
翌日、外出から戻ると、ターンダウンの済んだ部屋には1本のヤラバレー産の赤ワインが差し入れられていた。
こんなこともあった。
街を歩いている時、メルボルンでは今、役所広司主演の「PERFECT DAYS」が上映中だということを偶然知った。
日本で観たい観たいと思いながら、日常に忙殺されているうちに上映が終わってしまったことを残念に思っていた映画だった。
日本映画だから英語の字幕がつくはずだし、英語の勉強にもなるはずだからと観に行くことを即決した。ネットで上映館を調べてみたが、土地勘がなくてどの映画館に行けばいいのか判断がつかなかった。
ホテルに戻るや否や、フロント係に「PERFECT DAYS」が観られる場所と時間を調べてほしいと依頼。彼女は、手元のパソコンを叩きながら、ホテルから最も近い上映館とトラムでの行き方を教えてくれた。
外国で日本映画を観ることの面白さについては、帰国して最初にnoteにまとめたので、ヴィム・ベンダース監督や役所広司、あるいはトイレ掃除に興味がある方は読んでみてほしい。
数日後、フロント前を通りかかった時、映画館を教えてくれた彼女が勤務していたので、
「こないだ教えてもらった映画『PERFECT DAYS』観てきたよ!
面白かったよ! Perfectだった、ありがとう!」
と声をかけたら、
「お役に立ててうれしいわ!」
とびきりの笑顔を返してくれた。
そんな風にホテルライフを満喫していたある日、事件は起きた。
長期滞在なので毎日部屋がクリーニングされているのが分かる。
シーツが代えられ、ベッドメイキングが完了し、部屋の掃除がなされ、ゴミ箱のゴミが捨てられ、水のペットボトルが補充されている。
しかし、その日に限ってそのいずれもがなされていなかった。
朝食を食べた時のゴミは捨てられておらず、床の掃除もされていなかった。
部屋の中を裸足で歩くと足が汚れた。
どういうことなのか?
ヒルトンと並んでアメリカを代表するホテルチェーン、マリオットグループの中堅ブランド、シェラトンらしからぬ振る舞いではないか。
フロントに電話をして、部屋を掃除してくれるように頼んだ。
かろうじてゴミ箱は空になっていたが、床を掃除した形跡はなかった。
大変残念なことだけど、状況は翌日も変わらなかった。
そのあくる日、理由が明らかになった。
部屋に置かれていた告知書によれば、その日を境に、私たちの泊まっていたホテルは、シェラトンホテルではなくなっていたのだ。
ベイブホテルという地元資本のホテルに身売りされたらしかった。
目と鼻の先に、マリオットホテルがあった。
シェラトンはマリオットグループだから、こんな近くに2軒のホテルを構えてて大丈夫?と思っていたけど、まさか滞在中に売却されてしまうなんて想像もしていなかった。
僕たちは連泊をしていたので、最悪の事態として「明日以降の予約は無効です」と言われる事を恐れていた。
告知書には
「あなたが予約したのはシェラトンホテルで、そのホテルはすでにないので、このまま泊まりたいなら予約し直して、料金をお支払いいただきたい」
といったことが書かれていた。
あなた方が支払ったいホテル代はシェラトンホテルに払われたもので、私たちは預かり知らぬ事だと言いたいらしい。
「冗談じゃない!」
そんなのホテルの都合じゃないか。代金はシェラトンに請求してくれ。
我々は支払い済みなのだから、ビタ一文支払うつもりはない。
自分たちの置かれた立場を妻と確認し合って、妻が交渉してくれた。
結果、僕たちは翌日からも同じ部屋に泊まることができた。
料金は請求しないという言質も取れた。
帰国後に、妻のクレームを受けた親会社のマリオットからは
「ご迷惑をおかけしました」
とポイントを付与するとの申し出まであった。
シェラトンの従業員たちは首になったらしい。
おそらくは部屋の清掃を担当していた人たちは、突然の解雇を言い渡されて、仕事どころではなかったのだろう。
泊まっている最中に、ホテルが身売りされリブランドされるという滅多にない体験をすることができた。
追加料金などは払わずに済んだし、妻のネゴシエーションのおかげでお詫びのポイントまでついた。
泊まっていたホテルが消えてなくなるという降ってわいたような災難だったけど、普通ではできないレアな経験が楽しめたと思っている。