「完全なる消化」と「不完全な消化」の違い
消化不良を防ぐには、毎日無意識のうちに体内で行なわれている「消化のシステム」について、知っておくことがとても大切です。
たくさんの種類の酵素たちが、それぞれの役割を果たして、食物を私たちのエネルギーに変える作業をしているのだとわかれば、酵素の無駄づかいが、いかにもったいないことかがよくわかると思います。
「消化」とは、食物の中にある「炭水化物、タンパク質、脂質」の三大栄養素を、小腸から吸収できるような分子レベルのサイズにまで、小さくする作業のことを言います。
この三大栄養素のほかに、ミネラルやビタミンなどの他の栄養素も、同様に小腸から吸収されていきます。
私たちがものを食べると、口から入った食物は、胃→小腸→大腸へと移動しながら、消化吸収の作業が進んでいきます。そこでは各臓器でいろいろな種類の酵素が働き、栄養素を小さく分解していくという、緻密な作業が行なわれています。
なぜならタンパク質ならアミノ酸、炭水化物ならブドウ糖、脂肪なら脂肪酸に分解されなければ、しっかりと吸収できず、よい栄養として体に取り込むことができないからです。
例えばタンパク質は、アミノ酸が1000個以上も糸で繋がれたような状態になっています。
消化とはこのネックレスのようにつながった状態を、消化酵素が中心となってバラバラにする作業なので、消化酵素が不足していれば、うまく作業ができません。
タンパク質の消化は、胃の中のペプシンという消化酵素の働きで、まず大まかに行なわれます。
その後小腸に入ると膵臓からの消化酵素と小腸から出る消化酵素(約10種類)によって、バラバラに切り離されます。
酵素はネックレスのつながりの糸を切る鋭利な刃物のようなものです。
炭水化物も、ブドウ糖、果糖などの「単糖」に切り離されないと、吸収がうまくいきません。
炭水化物はまず、口の中のα-アミラーゼという消化酵素の働きで、胃や腸で消化作業が進めやすいサイズに小さく切り離されます。
よく噛んで、しっかり唾液を混ぜることで、消化作業はスムーズになります。
ですから「よく噛む」ことは、「完全なる消化」をするために、とても大切なのです。
胃の中には炭水化物の消化酵素は以前はないと考えられていましたが、最近は胃上層にアミラーゼが存在することがわかってきました。
そのアミラーゼの作用により大ざっぱに消化され、胃酸の働きで分解しやすいように、軟らかくほぐされます。
その後、小腸でマルターゼ、フルクターゼなどの消化酵素によって、単糖のブドウ糖や果糖になり、吸収できる状態になります。
また脂肪はネックレス状ではなく、イモ虫のような三つの脂肪酸が、グリセロールに繋がった状態になっています。この繋がりを断ち切ることが、脂肪の消化にあたります。
リパーゼという消化酵素が、脂肪の消化には活躍します。
このように消化は、それぞれの栄養素にあわせて、消化酵素が胃酸や補酵素、胆汁などと共同作業を行なうものです。
消化酵素が十分になければ、「完全なる消化」を行なうことはできません。
完全なる消化ができないと、栄養がしっかり吸収できないばかりでなく、さまざまな弊害が起こるのです。
「不完全な消化」でいちばん問題になるのは、消化しきれなかった残留物が、腸内で悪玉菌のエサになることです。
例えばタンパク質が完全に消化されないと、 「窒素残留物」というタンパク質のかけらが残りますが、これは悪玉菌の大好物です。
前にも述べましたが、悪玉菌が増えると腸内は腐敗、異常発酵を起こし、血液を汚します。
そして、さまざまな疾患の原因になります。
「完全な消化」を毎日できるように食事に気をつけることこそが、健康を守る上で一番大切なことなのです。